Y「はぁ……ビックリしたな。」
私はお風呂の浴槽に浸かりながら、独り言のように呟いた。
キッチンでクリスマスパーティーの片付けをしている時、使用したお皿等をテーブルから運んでくる夫に何気なく、今日は羽山君が店長と二人で勤務している、ということを言うと、夫はケーキを持っていってあげてはどうか、と提案してきた。
当初は夫の提案を、そんな傷口に塩を塗り込むようなことをする必要があるんだろう、と訝しんだが、よくよく考えれば、羽山君が1人でクリスマスを過ごすことになった原因の一つが私にもあることは流石に理解は出来た。
だとすれば、夫の言うことを断る理由もないので、私は片付けが終わった後に羽山君の上がり時間に間に合えばケーキを届けることにした。
夫が子供達を寝かせるために2階に上がった後、食洗機に全ての食器を入れて時間を見ると9時45分だったので、私は余ったケーキを1切れ小さめの箱に入れ、お店に向かった。
お店の駐車場に着くと、丁度店長が車に乗って帰宅するところだったので、鉢合わせしないで済んだ。
暫く車内で待っていると、羽山君からLINEが送られてきた。
白熊のクリスマスのスタンプだった。
私がここにいることも知らずに送ってきたんだなぁ、ということを考えると、思わず笑いがこぼれる。
数分経って羽山君が店から出てきて、ヘルメットを着けようとしていたので、驚かせようと思って後ろから声をかけた。
ケーキを渡して、すぐに帰ろうと思ったら…
突然の告白に一瞬頭が真っ白になった。
いや、何故このタイミングで?てか、もうその気持ちは分かってるつもりだったから、私なりに出来る形で応えてあげてるじゃん?
そんなことを考えていると、一つの結論が出てきた。
あぁ……羽山君は、私の全てを手にしたいんだ。
私に家族を捨てて、駆け落ちし、自分のものになってもらいたいと思ってるんだ。
だから、こんなことを突然言い出すのか。
Y「良かった。冷静になれて。」
男性にあそこまで言われて、嬉しくない女性はいないと思う。
事実、私の中で羽山君の好感度は上がったと思う。
でも、私には夫がいる。
夫を、家族を裏切って得られるものは何もない。
だから、私は羽山君の気持ちに応えることは出来ない。
私は浴槽を出て、鏡に映る自分を見る。
Y「案外、私まだいけるのかな?」
私はシャワーを出して、髪を洗い始めた。
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