12月に入り、世間はクリスマスの様相を呈してきた。
しかし、残念ながら、今年の僕にはクリスマスは何の色もないイベントだと思う。
大学で一番親しい男友達の生澤にも、最近は彼女が出来たようで、クリスマスは一緒に彼女と過ごすらしい。
生澤「俺はきちんと自分の身の丈に合った彼女だよ。」
と言われたが、Yさんは僕の彼女ではない。
やっぱり、Yさんはそう頻繁に僕と会ってはくれない。
僕からYさんにLINEをしても、返信があるのは相変わらず昼間だけだし、Yさんのプライベートの生活状況も分からないから、僕から会いたいと言い出すことは出来なかった。
高校2年から毎年クリスマスの時期には彼女がいた僕にとって、久々に一人で過ごすクリスマスだ。
だから、僕は学生生活最後のクリスマスに、あえてバイトを入れて過ごすことにした。
この日、昼番のクルーはYさんだったのも、理由の一つではあったが。
羽山「おはようございます。」
Y「羽山さん、おはようございます!溝口さんと交代したんですか?」
羽山「今日も元気ですね(笑)そうです。溝口予定あるみたいなんで交代しました。」
僕はレジ点検の作業を始めながら、Yさんと会話をする。
相変わらず、Yさんは、店舗内で会う時は仕事モードだった。
羽山「あれ、Yさんの家はクリスマスの準備は大丈夫なんですか?」
レジ内のお金を集計しながら、後ろで見ていたYさんに聞いた。
Y「朝のうちに、ある程度は準備しましたんで。後は帰りがけに予約したケーキを買いに行けば大丈夫です。」
羽山「あ、そうなんですね。お子さん達もサンタが来るの楽しみにしてるんでしょうねぇ。」
Y「んー。長男はもう親がプレゼント買ってることに気付いてますけどね。でも、親に気を使って気付かないフリしてますよ。」
羽山「良いお子さんですね(笑)」
Y「ですね。あ、100円が148枚です。もう1束ありますよ。」
羽山「あ、間違えました。」
Y「羽山さんは、今日は上がったら何かあるんですか?」
羽山「僕ですか?勿論ですよ!何もない(笑)だから、バイト入れたんですから。てか、こんな日にバイトに来てる人に意地悪なこと聞きますね(笑)」
Y「そうなんですね。でも、そんな年もありますよね。」
羽山「久々に一人ぼっちなクリスマスです(笑)あ、誤差なしです。お疲れ様でした。」
Y「お疲れ様でした!」
Yさんは元気に挨拶をしてバックヤードに引き上げていく。
店長「羽山君、とりあえず、チキンは多めに揚げておいてくれ。僕は裏で仕事してるから、忙しくなったら呼んで。」
羽山「分かりましたー。」
夕方からは、カップルと思われる男女や、家で待つ家族のためにケーキを受け取りに来る父親や母親と思われる人達が次々来店してきて、夕番にしては、中々の忙しさだった。
僕は一人黙々とチキンを売ったりケーキを売ったり、シャンメリーを売ったりしながら、気付いた時には5時間があっという間に経過していった。
店長も夜勤クルーが出勤すると、いそいそと先に帰っていく。
僕は夜勤クルーと交代してから、一人バックヤードで制服を脱いで、ジャケットを着た。
そして、何となくLINEを開いて、Yさんにメリークリスマスのスタンプを一方的に送信した。
珍しく、送ったらすぐに既読が付いたが、もちろん返信はない。
僕はお店を出て駐輪場でヘルメットを被ろうとすると、すぐ後ろから声をかけられた。
Y「いかんなぁ。これからの若者が、クリスマスにそんな覇気のなさじゃ(笑)」
後ろを振り向くと、コートを羽織ったYさんがいた。
羽山「Yさん……え?なんで?」
Y「交代した時、あまりにも覇気がないからさ。少しは元気出すようにと思って、ケーキ持ってきた(笑)」
そう言いながら、Yさんは小さな箱を僕に差し出す。
羽山「あ……ありがとうございます。」
箱を受け取りながら僕はお礼を言う。
Y「て言っても、うちで食べたケーキの余りだけど、許してね。」
羽山「いや、全然嬉しいです。ホントに。」
Y「そう?良かった(笑)じゃ、用事は済んだからこれで。」
そう言いながら、Yさんは車の方向へ戻ろうとした時、僕は気付かないうちに思わずYさんの左腕を掴んでしまった。
Y「なに?」
ビックリしながら、Yさんは僕を見る。
次の瞬間、僕は思わぬことを口走った。
羽山「あの……えと……好きです。付き合って下さい。」
キョトンとしながら、Yさんは僕を見ていた。
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