「パートにでも出ようかって思うの」
ある朝の妻の言葉に絶句した。
どんな顔をすればいいかも分からず 新聞紙の影に隠れ続けた。
「・・・どうしたんだ?」
そう聞き返すので精一杯だった。
どうかした訳じゃない
少し変化が欲しいだけ
家事はちゃんとする
妻は まるで用意していたかのようにスラスラと言い訳を並べていく。
いや、それを言い訳だと感じる自分がおかしいのかもしれない。
そんな事があるはずがない。
そう思いながらも、俺は額に浮かぶ汗がバレないように 震えそうになる指に気づかれないようにするので必死だった。
そして、自分の思考に耐えきれなくなり 「・・・わかった・・・いいんじゃないかな・・・わかった・・・そう言って、足早にリビングから逃げながら、妻のパートを許可した。
パートを許して良かったのだろうか。
そんな思いが仕事中も 頭の中を覆っていた。
それは振り払えない霧のような、纏わり付くモヤのような感情だった。
そんなはずがない。
強く頭の中で叫んでも、次の瞬間にはまたモヤの中に包まれる。
そんな日を数日間も続けた。
「そういえば、アレどうでした?あの人妻に風俗嬢させるっての」
打ち合わせ室での男達の猥談を 俺はまた倉庫に忍び込んで聞いていた。
聞きたくてしょうがないといった感じの小杉に、山崎はニヤニヤした顔を向けた。
大川も中島も興味津々といった感じで山崎を見ている。
ふっ・・・と笑い、山崎は「今日で2日目の出勤だよ」と言った。
ドキッとした。
けれど同時に安堵も感じていた。
朝の妻の言葉と、今日で2日目の出勤とゆう山崎の言葉。
その2つにあるズレに、心から安堵した。
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