窓から外を見ると、手にはハンドバッグを持ち、柄物のワンピースを着た女性がゆっくりとした足取りで、西の方角へと歩いて行っています。
そして、角を曲がって見えなくなった頃、僕は自分の部屋を出るのです。着ていく服は、ノーマルのものを選びました。
エンジンを掛け、走り始めた車が向かうのは、僅か3分程度のところにある駅前のロータリー。歩く彼女も、そこに向かっているのです。
1つ手前の信号に掴まった僕の車。向こうからは、ちょうどおばさんが歩いて来ています。一歩は大きいですが、ゆっくりと足を運びます。
僕の車がロータリーへと入ると、気づいた彼女が立ち止まります。そして、彼女を助手席へと迎え入れるのす。
助手席に座るおばさん。気にしない素振りをしてはいますが、笑顔がどこか硬いです。
『デート!』と冗談っぽく言われ、軽い気持ちで受けてくれたのでしょうが、いざその時となると意識はしてしまうようです。
息子の友達、近所の男の子、昔はそれでよかったのかも知れないが、それが25歳となるとおばさんもいろいろと考えてしまうのは当然しょう。
それは、僕も同じ。自分が何をしたいのかもよく分からない。『仲良くなった勢いで誘ってはみたものの…。』、そんな感じだった。
しばらく、車を走らせる。おばさんが隣に座っているため、慣れない密室に息が詰まりそうにもなる。
彼女は終始社交的な笑顔を見せてはいるが、向こうから話し掛けてくることはない。目が合うのを恐れているのか、僕の方を見ることもない。
そして、5分程度の沈黙。それを破ったのは、『おばちゃんさぁ~、降りたら、手繋いでよぉ~?』という僕の無邪気な言葉だった。
『ウフフ…、ほんとにぃ~?』と、一瞬で彼女の顔に笑顔が戻る。照れくさそうな顔を見せ、困った表情へと変化をしていく。
その瞬間、僕の左手がおばさんの右手を掴まえていました。『当たり前やろぉ~。』と言い、掴んだ手を振るのです。
おばさんの顔は、更に照れくさそうな顔になっていきます。手を口にあて、『恥ずかしいわぁ~。』とその表情を隠していました。
着いたのは、隣町の大きな自然公園。日曜日ってこともあって、思った以上に家族連れの人達がいます。
車を降り、彼女と並び立つと、おばさんの手が僕の腕にそっと掛かります。ちゃんと覚えてくれていたようです。
『腕を組む。』と言うより、僕の腕に手を軽く乗せているって感じでしょうか。そして、歩き始めると彼女の身体は寄り添ってくるのです。
家族でも、恋人でもない年の離れた二人。その歩みはどこかぎこちなく、家族連れやカップルいるこの公園においては場違いな気もします。
それでも木々を眺め、自然を満喫して歩いていれば、そんなことも忘れてしまうのです。帰りの車に乗る頃には、二人の手は繋がれていました。
恥ずかしさなど、どこかへ行ってしまいました。
待ち合わせ場所だった駅のロータリーへと戻って来たのは、午後5時前。僕を心配した彼女が、夕食前でデートを切り上げたのです。家には両親がいますから。
車を降りた彼女は、お世辞なのかも分かりませんが、『ありがとうねぇ。楽しかったぁ~。』と言ってくれます。そして、初めてのデートは終わります。
おばさんが歩いて自宅へと戻ったのは、それから10分後くらいでしょうか。店の扉にカギを挿し込み、開けようとしています。
そして扉が開いた時、その背後には僕の姿がありました。それには、『ナオミチちゃん?どうかしたの?』と不審そうな顔を見せた彼女。
しかし、僕はその手を取り、家の中へと彼女を引っ張ります。
初めて抱き締めたおばさんの身体。しかし、彼女の頭と肩は下がり、その腰は後ろに引かれています。
それは、抱き締めていると言うより、上から抱えているという感じです。
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