先にベッドから出た加代子さんは、すぐに一階へと向かいます。シャワーの響き始め、汚れた身体を洗い流しているようです。
遅れてベッドを出た僕は、一階のリビングへと向かいますが、もうそこには朝食の準備をする彼女の姿がありました。
彼女から、『まだよぉ~?そこで待つ~?』と言われ、いつものソファーに腰を降ろします。テレビを見ながら、ここで時間を潰します。
キッチンの方を見ると、主婦をしている彼女の姿が見えます。慣れたもので、手早く僕の朝食が作られていきます。
とてもさっきまで、『逝くぅ~!』と喘いでいた女性とは思えません。気持ちはもう、切り替えられているようです。
しかし、風呂場の方からは洗濯機の回る音がしている。マン汁で汚れてしまった下着を洗っているのだろう。
真面目な顔で主婦をしている彼女を見ると、そのギャップに余計に笑いが込み上げてしまうのです。
そんな彼女に、『ねぇ~?誰かに食事を作る時って、どんな感じなの?』と聞いてみます。
『何がぁ~?なにか考えてるかなぁ~?…。お母さんに聞いてみて~?』と答えられてしまい、僕の求めるものとは少し違ったようです。
『愛情』だとか、『誰かを思って』とか、長く主婦をしていれば、そんな感情も薄れてしまうのかも知れません。
僕に朝食を出した彼女は、2つのカップを持ってリビングを出ます。向かったのは、隣の仏壇の置いてある部屋。
もう日課になっているのでしょう。ご主人と息子のために、今日も供えるのです。それを見せられては、さすがにバカなことも言えません。
しかし、戻って来た加代子さんは、『それ、ナオちゃんのこと思って、おばちゃん、ちゃんと作ったから~。』と言ってくれるのです。
仏壇に供えているに時に、僕の言った意味を少しだけ分かってくれたのかも知れません。
『一回帰る?お母さん、心配していたら困るから~。』、食事後に彼女に言われ、僕は二日ぶりの我が家へと帰ることになります。
玄関で交わすキスも軽いもので、それでも彼女の唇から愛情を感じとることが出来ました。
ご機嫌でお店の中を通り過ぎて行く僕。不意に手が何かに触れ、床へと落ちました。見れば、それは薄いカタログ。
僕にはよく分かりませんが、このお店で取り扱う品物のカタログのようです。見送ってくれた彼女に気づかれないように、そっと元に戻して店を出るのでした。
戻されたカタログは、A4サイズのそう厚くはないもの。その中から、白い紙が僅かに飛び出していたが、急いでいた僕はそれには気づかなかったようです。
それは小型の手帳から破り取られたと思われる、一枚のメモ。そこには、走り書きでこう書かれてあった。
『加代さんへ。30日の午後6時30分くらいにまた会いに来ます。 田崎信哉 』
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