午後7時30分を回った、遅い夕食。テーブルの上は豪華な食事が並び、これを僅か15分足らずで仕上げてしまった主婦としての彼女の腕前を認めざるを得ない。
メインのお肉には手製のソースが掛けられ、更に色付けをされていく。
『すげぇっ!』と言った僕に、『有り合わせよぉ~?』と返してきた彼女だったが、その顔は自信満々。基本、料理は上手な人なのです。
食事が始まり、『うまぁ~。』と素直に言ってしまいます。その辺の外食店並みに感じたのです。
『僕、この家の子になるわぁ~!!』
それは、息子の死を思い出させないために、とてもオーバーに言う必要がありました。おかげで、『そお?』と笑ってくれるのです。
そして、僕はまたオーバーな台詞を吐くのです。『加代子さんと結婚したら、これ毎日食べれる~??』、また笑って欲しかった。
しかし、彼女の顔は素に戻ってしまう。ふざけた例え話とはいえ、二人の名前を出したことは失敗だったのかもしれない。
それでも、すぐに彼女に笑顔は戻っていた。主婦と母親、二つの顔を持つ加代子さん。
きっと、この食事の場にはいつも、無理をしてでも笑う彼女の笑顔があったのでしょう。
午後9時。『そろそろ帰る?』と彼女が聞いて来ます。『そうしようか。』と返事をした僕。今日はいろいろ有りすぎました。
それでも、『泊まっていってもいいけど?』と声を掛けてみます。ほとんど断られるので、僕と彼女の間では社交辞令みたいなものです。
『お母さん、心配してるでしょうから…。』、このいつもの返事を待ちます。
しかし、この日の加代子さんは違い、『ほんとにいいの?』と聞いて来ました。その言葉に、帰り掛けていた僕の足が止まります。
『いいけど…。』と答える僕でしたが、おばさんの返事がすぐには返っては来ません。いろんな思いが、彼女の名かに駆けめぐっているようです。
『なら、いて欲しい…。一緒にいて欲しい…。』
絞り出した言葉、それは誰にも言えなかった彼女の本心の声。『しっかりとした人。』と呼ばれてきたため、彼女はいつもそれを飲み込んで来ていたのです。
『私…、おばちゃんでも寂しいから…。この家で、誰か一緒にいて欲しいから…。』、そう言った彼女の頭は下げられていた。
泣いているのかもしれない。人に本音を言ってしまう自分を恥ずかしく思っているのかもしれない。ただ、今は顔を満足には上げられないようだ。
『なら、一緒にいます…。その代わり、朝まで加代子とセックスしまくるよぉ~!!いいの、それでぇ~!!』
この言葉もオーバーに言う必要があったみたいです。
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