僕達二人を見た吉川さんは、キョトンとした顔をしていた。しかし、すぐに察したようで、僕達を家の中へと招き入れようとしてくれる。
加代子さんは、『いえいえ、私はここで…。』とここでも嫌がっていたようだが、僕の手は彼女を離さなかった。
一段上がった居間へと腰を降ろします。加代子さんは、『吉川さん、ごめんなさいねぇ。ほんと申し訳ありません。』と頭を下げている。
それは、ここに来た僕のことを謝ってくれている。母親として、謝っているのだ。
吉川さんは対面に座ると、『どした?私に用か?』と言ってきます。人と話す場には慣れているのか、こんな僕にでもちゃんと目を合わせて来ている。
『この前のことなんです。僕に言ってくれたのは有りがたいのですが。川田さんに同じこと言われましたよねぇ?それって。どうなんですか?』と口火をきる。
吉川さんは、『私、なんか悪いことしたか?二人、付き合ってるんやろ?』とお互いに話すことは当然と主張をしてくる。
『なんて言うか、別れさせようとしていると言うか…、あまりいいやり方とは思えないですが…。』と返してます。
それには、『別れさせようとは思ってないわ。ただなぁ~、二人、いろいろと間違ってるよ~?』と言ってきたのです。
『兄ちゃん?このこと、お母さんに言ってるのか?これからも、そうやってコソコソやっていくつもりか?』
『加代ちゃんは?あんたも、死んだ息子に胸はって言えるんか?あの旦那が喜んでくれてるとは、私は思わんよ?』
僕は言葉が出ない。加代子さんは言えば、その言葉に大粒の涙を流している。こんなに号泣をする彼女を見るのは初めてだった。
頭の中には、亡くなった旦那さんと息子の顔が浮かんでしまっているのだろう。
『わたしが間違ってます…。この子はなにも悪くないんです…。全部、私が間違ってるんです…。』
そう言った加代子さんの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。その顔を隠そうともせず、吉川さんに気持ちを伝えていました。
『あのね…、』と、言い掛けた僕だったが、思わず手が口を塞いでしまっていた。声が震えていることと気づき、反応をしたのです。
目は熱くなり、次第に涙が溜まり始めます。どうにもならない切羽詰まった状況に、悔しさが込み上げてしまったようです。
吉川さんは、ちゃんと正論を言ってくれています。間違ってるのは、きっと僕達なのです。
悔しいくらいに、僕から目を離さない吉川さんがいました。何も言えない僕を、嘲笑っているようにも見えます。
しかし、『あのね…、の次はなんや?言いたいことあるんだろ?男だったら、ちゃんと言わんかいな~。』と僕の言葉を待っているのです。
更に涙が溢れます。声は引き始め、もう泣いてしまっていることは隠せません。
そして、『お前、男だろ!チンポついてるんだろ~!』と強く言われ、僕の口から溜まったものが吐き出されてしまうのです。
『僕、間違ってるかも知れんけど…、間違ってるかも知れんけど…、お前のやり方が気に入らんのじゃ~!!』
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