吉川さんに悪意はない。おそらく、どこかで僕と加代子さんが仲良くしているところを見たのだろう。それを素直に聞いて来ているのだ。
『僕と川田のおばさんがぁ~?やめてよなぁ~。』とシラを切った僕。おばさんの返事は、『そうか。』と素っ気のないものだった。
9時30分となり、またみんなが広場へと集まる。手に持った袋が一杯になった人、あんまり入っていない人様々で、それでもなんとかゴミ拾いは終わりとなる。
チラッと加代子さんの方を見たが、彼女は別のおばさん達と話をしていて、僕との接触をすることはない。
『ナオ~?帰ろうか?』と母が言ってくる。僕はトングを戻し、母と家路に着こうとする。そこへ声を掛けて来たのは、あの吉川さんだった。
『お疲れ、お疲れ。ごめんよ?兄ちゃん、ちょっと時間あるか?』、まさか、これが悲劇の始まりになるとは思ってもみなかった。
いつもの調子でズケズケと話し掛けてきたおばさん。昔からおばさんを知っている母も、笑顔で振り返っていた。
『どうしたんですか?なにかあります?』と聞く母に、『ちょっと、兄ちゃんに頼みたいことがあるから。』とおばさんは答える。
そして、『兄ちゃん?うちの家、知ってるか?』と聞いて来ます。知ってるも何も、川田さんの三軒横。知らないはずかありません。
母は先に家路へと着き、遅れて僕と吉川さんとが帰って行く。目の前には、もう一人歩いていた。川田のおばさんだった。
60歳だというのにゆっくりとした足取り。肩は落ち、歩く姿勢も悪い。
店のカギを開けた加代子さんは、僕達へと頭を下げた。隣に並ぶ吉川さんが、『お疲れ、お疲れ、』と大きな声を掛ける。
お店の中へと入ろうとしていた加代子さんの動きが、一瞬止まっていました。僕が吉川さんの家へと入って行っていたからです。
初めて入った吉川さんの家。どこか薄暗く、一人暮らしを思わせる。『なんか飲むか?』と言われ、目の前には缶ジュースが出されます。
それに手を掛けた時、『さっきの話しやけどのぉ~?』と言われました。まだ、あの話しは終わってはいなかったようです。
『何がですか?』とまたシラきった僕。しかし、『川田さんのことよぉ。アレ、ほんとはどうなんや?』とストレートに聞いてきます。
僕は少し落ち着くのを待ち、『ああ、おばさんとなんかあるはずないよぉ~。』と言いますが、考えの甘さを思い知らされるのでした。
『デパートで手繋いでかぁ~?朝帰りしてかぁ~?駅で待ち合わせしてかぁ~?』、吉川さんの言葉に身体が震えます。言葉がありません。
それどころか、強張る顔は隠せず、無言でも白状をしているようなものです。
『あの娘、旦那もおらんけど、息子も亡くしたばかり違うんか?どんな神経してるんや?』というおばさん。標的は僕ではなく、加代子さんだったようです。
『そうですね…。』
不意に出た言葉。そこまで言われしまい、自分のことを反省して言ったつもりでしたが、おばさんと一緒に加代子さんの不貞をけなしたようにもとれます。
少し、言葉選びを間違えました。
『もう、肉体関係もあるんだろ~?あの娘、60過ぎてるんと違うか?兄ちゃんも考えや~?お前の母さん、泣くぞ?』
おばさんの言葉に、僕の身体は固まっていました。加代子さんを手に入れたことで浮かれしまい、本質から目を背けていたことを思い知らされます。
『幼なじみの母親。』
『母も知る、昔から近所に住むおばさん。』
『60歳も過ぎた未亡人。』
第三者的に見れば、『お前ら、アホか?』と言われてと言われて当然。僕はそんな女性とお付き合いをしているのです。
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