目を覚ましたのは、午前9時を回っていた。そこにおばさんの姿はなく、布団をめくれば早朝の愛し合った跡だけが残されていた。
黄色くなって乾いた染み。今となっては、もう僕のものか彼女のものなのかも分からない。そんな愛し合ったベッドを僕はあとにする。
一階へと降りた僕は、リビングへと向かった。しかし、そこにおばさんの姿はなく、仕方なくソファーへと腰を降ろした。
静かな日曜日の朝、そして静かなこの家。耳を済ますと、お店の前の道路を数台の車が行き交いを始めているようだ。みんな、一日が始まったのです。
静かなこの家でしたが、一階の奥の部屋から物音がししてきます。きっと、おばさんが何かをしているのでしょう。
しばらくするとその部屋から彼女が現れ、『起きた?おはよう。』と声を掛けてくれます。僕はエプロン姿の彼女を見て、『洗濯してた?』と聞きました。
『うん。お洗濯。』とだけ言って会話を切った彼女を見て、汚れしてしまった下着類を洗ったのだろうと推測をしてしまうのでした。
おばさんは、『もう9時を過ぎてるわねぇ~?』と言うと、冷蔵庫から作り置きをしていた朝食を出し、パンはオーブンで焼かれます。
テーブルへと腰掛けた僕の横では、エプロン姿の彼女が僕のための朝食を準備してくれていました。
うちの母がほとんどエプロンをしないため、それに目がいってしまいます。亡くなった川田くんは、ずっとこのエプロン姿のお母さんを見ていたのでしょう。
おばさんは自分にはコーヒーを用意し、朝食を食べる僕の対面へと座りました。『美味しいです。』と言っても、その笑顔は変わりません。
その顔からは、行為中のあの顔は想像が出来ず、僕はただ箸を進めます。それはきっと母親の顔。子供がご飯を食べるのを見守っている母の顔なのです。
食事を終え、流しで食器棚洗いを始めたおばさん。エプロンでは隠せない後ろ姿がそこにはあります。
背中は広く、お尻も少しどっしりとしています。『おばさんは細い。』なんて思っていたのは、もう昔のこと。
歳と共にボリュームを増し、弛んだ身体を隅々まで僕は昨夜見てしまったのです。しかし、『どうする?帰る?』と聞いてきたその顔。
それにはどこか気品があり、美人としか言えません。やはり、きれいな方なのです。
『どこか行きたいなぁ~。デートとかしない~?』と答えると、おばさんは少し考えますが、『どこか行きたいところとかある~?』と逆に聞いて来ました。
特に何もない僕でしたが、『おばさん、映画とか観る?』と聞いてみます。結果は、『長いこと、観たことがないわぁ~。』でした。
イメージ的にも想像は出来ました。しかし、このあと二人は映画館へと向かうことになります。映画が観たい訳ではありません。
長く行っていないと言う、『映画館』という空間におばさんが少しだけ興味を示したからです。
※元投稿はこちら >>