同性の唇…、女の唇…、
不定期に加代子さんの頭の中に浮かんでは消えるこの感覚。その度に、彼女は嫌悪感に襲われてしまっていた。
奈美のストレート過ぎる口づけも、彼女の求めるものではなく、簡単に言えば『気持ちがよくない。』のだ。
それは奈美の方にも伝わっていた。加代子さんの表情や気配から感じ取れてしまい、彼女の方にも余裕が消えていきます。
そんな彼女は焦り、急いで自分だけがその上半身を露にしました。男のような身体を擦り付け、なんとか加代子さんの気持ちを掻き立てようとしてしまいます。
目に見えない心理戦。分があったのは加代子さんの方でした。奈美の勢いが収まっていくのをひしひしと感じるのです。
床に手をつき、身体を上げ始めた加代子さん。重い奈美が背中へと乗っているのに、今度は意図も簡単に起き上がれます。
すでに奈美の方には、気力も圧力も抜けてしまっていたからでした。顔を見れば、してしまった事への後悔が浮かんでしまっています。彼女はまだ幼いのです。
『ウソよねぇ~?…、あの子のこと、みんなウソなんでしょ~?…、』
乱れ掛けた服を直しながら、加代子さんはそう詰めよっていました。彼氏に対しての一連の疑惑を、奈美に問いただすのです。
彼女は無表情のまま、その質問を聞いています。ここでも、してしまったことに後悔をし、言葉がないのです。
『あのねぇ~?…、もし、奈美ちゃんの言った通り、あの子があなたと何かあったとしても、私は彼を愛せます…。
それは…、おばちゃんの勝手な言いぐさにもなるんだけど、あの子に愛されたいから…。奈美ちゃんの彼氏だとしても、私は彼に愛されたいのね…。』
加代子さんのさらけ出した本心が、奈美の心に突き刺さります。彼女は頭を下げ、しばらくはその顔は見ることが出来そうにありません。
そんな奈美は、スマホを手にします。うつ向きながらも操作をし、その画面を加代子さんへと見せるのです。
加代子さんはスマホごと手にすると、それを覗き込みます。しかし、驚く様子もなく、奈美を思い、笑顔を見せました。
『これ、わたし?…、』
スマホ馴れをしてない彼女でしたが、指で弾くと、次々と現れてくるのは自分の写真。奈美は、本当に自分を慕ってくれているのです。
加代子さんはうつ向いたままの男のような背中に身体を預けると、彼女を抱き締めます。それは僕の時と同じで、惨めな奈美の姿に母性が働いたのでした。
この瞬間だけは、二人は母と娘だったのです。
奈美を抱く加代子さんの手。抱くというよりは、背中を抱えて支えているといった感じでしょうか。そんな奈美の背中に、小さなキズを見つけます。
それは新しく、きっと争っている時に突起物に擦れてしまったものでしょうか。僅かに血が滲んでいました。
『奈美ちゃん、背中にちょっとキズしてる。軟膏とかある?』
気になった彼女は、そう聞いています。奈美は上半身全裸のまま奥へと走り、救急箱を手にして帰ってきました。
その中からスプレー式の消毒液を手にした加代子さんは、背中のキズにシュッと吹き掛けてあげるのです。
流れ落ちる液体を見ながら、安心をした加代子さんはこんなことを聞いていました。
『奈美ちゃん、お義母さんは~?』
祖母のことは知っている。もちろん、奈美のことは知っている。奈美の父、そして彼女の産みの親も知っている。
しかし、再婚をした彼女の新しい母親のことは、加代子さん自身もよくは知らなかったからです。『優しい方?』と聞いた加代子さんに、奈美はこう答えます。
『最悪な人…。レイプ…、娘を平気でレイプするような人間…。だから、してやったの…。私もお義母さんを…、』
収まり掛けた空間に、また張り詰めたような重い空気が漂い始めました。
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