部屋の隅へと転がされた加代子さんのスマホは、僕からのLINEの着信を知らせていました。しかし、今の彼女にそれを見ることは困難でした。
背中から大きな女の身体に押し潰され、身動きが取れなくなっていたからです。
『奈美ちゃんっ!…、ちょっと重たいから…、ちょっとだけ離れて…、お願い…、おばさん、ちょっと重いから~…、』
それはまだ、優しい言葉だった。何度も『ちょっと…、』と言ったのは、身体の大きな奈美を気遣ってのことなです。
しかし、身体に触れてくる手の力強さとその勢いは男性そのもの。『女の同士、ご近所同士だから大丈夫だろう。』と高を括っていた彼女も慌て始めます。
そして聞こえてきた、『おばちゃん…、おばちゃん…、』と自分を呼ぶ奈美の声。その声は、バートナーへと求めようとしている女の声でした。
『奈美ちゃん、ごめんなさい~!…、おばちゃん、女の人とはこう言うことはしないからぁ~!…、』
ここでは、そうハッキリと告げた彼女。もう、奈美のことを気遣う余裕もなく、『間違ってる!』と諭すのです。
加代子さんは、心の中で奈美に呟きます。『気を取り直して、もう私を離して…。』と…。しかし、次の言葉に心を揺らされてしまうのでした。
『私のナオミチとだったら、いいの~?…、ナオミチとだったら、拒まないのぉ~?身体、許せるのぉ~?…、』
それを聞いた加代子さん。『二人の関係がバレてしまっている。』と言うのに、そこには興味は向きません。
奈美の放った『私のナオミチ…。』という言葉ばかりが頭の中を駆け巡ります。『私のナオミチ?私の?』と、何かが崩れそうにもなるのです。
そして、加代子さんの中で空想をされていく若い二人のカップルの姿。彼氏だと思っていたその男は笑顔を作り、目の前のこの女と寄り添っていく。
二人は唇を重ね合い、激しいキスを繰り返していた。そして、『自分のモノ。』だと思っていた男性器は勃起をし、この女の股間へと突き刺さっていく。
彼氏が私だけに見せてくれる射精をする時の顔。その顔をしながら、この奈美と言う女の身体の中で、あの人は果てるのです。
『35歳もの年の差があるおばさん』、若い女性が現れれば、若い彼氏になと捨てられるは当然。
いつも、どこかでそれに怯えていた自分がいたのは確かなのです。
『彼、優しいでしょ?…、私、女性も大丈夫だからそうでもないけど、それでもおばちゃんとセックスしてるのはいい気はしないのよぉ~…、』
最後の力を振り絞り、床に手をついた加代子さん。しかし、奈美のこの言葉に、その手からは力が抜けていっきます。
『脱力感』、それは身体だけではなく、気持ちまでも支配をしてしまうものなのです。不思議と涙は出ません。
目を閉じていく加代子さんの首筋へと、奈美の厚い唇が押しあてられていきます。その口紅はまだ潤っており、彼女がついさっき薄く上塗りをしたものでした。
その唇から出された舌は加代子さんの首や耳の裏を舐め、愛撫を始めます。
それを受ける加代子さんですが、『女にやられている。』と思うだけで、気持ちは盛り上がりません。
そして、額にあてられた大きな手。力が込められると、伏せた加代子さんの頭が上へと持ち上がり始めました。
更にその手は頭へと巻き付くと、グッと後ろへと回されるのです。
(なによ、この女…。なんで、女なんかと…。)
現れた奈美の顔に、加代子さんはそう嫌悪感を感じています。気持ちはそのキスを拒むつもりでした。
しかし、
『その唇も返して…、ナオミチのキスも知っている唇でしょ…、もう全部、私に返して…、』
その言葉に、加代子さんの最後まで残っていた彼女の心も折られてしまったのです。
重なり合う唇。『同じ男を愛した唇。』、加代子さんの中から、女の奈美に対しての嫌悪感が消えていきます。
厚い彼女の唇に包まれ、どこかそれに応えようとしてしまう自分の唇。出口を失くした加代子さんは、その知らない世界へと入り込んでいくのです。
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