【act 10 ~ その名はV3(ブイスリャ~)~!! ~ 】
部屋でYouTubeを観ていた僕。動画サーフィンを続けて、あるヒーロー物へとたどり着いていました。
彼はオートバイに乗り、真っ赤な顔を隠すマスクを身につけています。その名も、『仮面ライダーV3!!』。
それを観た僕は、『あっ!これ、アイツじゃん!』と、ある人物と重ね合わせるのでした。
『ナオー、明日の掃除出てくれる?私、ちょうど夜勤があたってるから…。』
母にそう言われたのは、夕食の席だった。明日の日曜日の朝、恒例である町内の掃除があるらしいのだ。
母一人子一人、嫌でも僕が参加することとなります。
日曜日の朝。家を出た僕は、集会場がある東へと向かいます。すぐに見えてきたのは、加代子さんのお店。
ほんの一瞬だけ立ち止まったが、通り過ぎていきます。そして、次に見えてきたのが、あの吉川さんの家。(忘れた方は50話あたりを参照)
おそらく参加をするおばさんは、また大きな声でみんなに話し掛けてくるのだろう。
時間前となり、おおかたの参加者が揃ったようです。しかし、そこにはあの賑やかな吉川さんの姿はなく、いつもとは雰囲気が違います。
そして、うちもそうなのですが、年配の方々ばかりだった参加者の中にもチラホラと若い方の姿も出始めています。世代交代をしようとしているのですね。
その中、ある女性の姿を見つけます。真っ赤な上下のジャージが一際目立ちました。顔を見れば、年齢は30歳くらいでしょうか。
何より、そのジャージからははち切れんばかりの肉付きの良さが伺えます。きっと、スポーツマンをされている方なのでしょう。
清掃が始まり、偶然にも僕は加代子さんを含めたおばさん達と行動を共にすることとなります。
もちろん、他の方達には二人の仲を気付かれないように細心の注意を払いながらです。
そんな時、ふと後ろを見れば、あの真っ赤なジャージ女も着いて来ているようです。しかし、初参加なため、まだ皆さんと打ち解けられずにいます。
『あれ、どなた~?知ってます?』、そう加代子さんに聞いてみると、意外な答えが返ってくるのでした。
『奈美ちゃんのこと~?吉川さんのところのお孫さんよぉ~。』
聞いた僕は、少しビックリしています。祖母となりますが、吉川さんとはあまり似ていません。それに、その身体。
お祖母さんはかなりの痩せ型なのに、彼女の方はしっかりとした身が引き締まっています。お尻も大きく、何かのスポーツをしていることは明らかです。
『少し寂しそうだから、声くらい掛けてあげる?』
加代子さんはそう言い、同世代であるこの僕に任せようとするのです。
先頭付近を歩いていた僕は、少しずつスピードを落とし、奈美さんの方へと近づいて行きます。
そして、『ゴミ掃除も大変でしょ~?』と、初めて彼女に声を掛けたのです。すると、彼女の顔からは硬さが取れて行きます。声を掛けられ、彼女もチャンスと思ったに違いありません。
『大丈夫ですっ!私、運動してますから~。』
それが奈美さんの生の声を聞いた、初めてとなります。本人も気づいてないでしょうが、その声は張られています。やはり、体育会系です。
そして、見えたその顔は大きく、その造りも豪快なもの。美人とブスとかではなく、豪快なのです。
そして、はち切れんばかりの真っ赤なジャージ。デブではなく、スポーツに必要であろう肉が付きまくったような身体をしています。
そりゃ~、近所の元気のないおじさん連中も、初めて彼女を見れば一目置くことでしょう。
掃除が終わり、僕は買い物へと出掛けようと車を出しました。運悪く、加代子さんのお店の前の信号につかまってしまい、車を停めます。
そんな時、吉川さんの家から大きなバイクを引いて出てくる人物を見掛けました。あの奈美さんでした。
しかし、その格好は本物です。左手には色々とワッペンの貼られたフルフェイスのメット。
その身体には、上から下までつなぎとなっている、白と赤のライダースーツが着込まれています。エンジンを掛けると、颯爽と消えて行くのでした。
その姿は、まるで仮面ライダー。トレードカラーは、きっと赤なのでしょう。いつからか、僕は彼女を『V3(ブイスリャー)!』と呼ぶようになるのです。
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