『ちょっと、臭うねぇ?…、』
母は、稲原さんのそれを握り締めながら、そのことをちゃんと彼に伝えている。何事もハッキリとさせないと気がすまない、母の性分でした。
通り過ぎる車のライトによって、少しだけ照らされる車内。その度に彼の男性器が浮かび上がり、膨張をした亀頭が見えてとれます。
異臭が気になりながらも、母の舌は亀頭の側面をペロッと一舐めをします。すると彼の身体が震え、硬直したのが分かりました。
『ちょっと、気持ちがよかった?』、おそらく、初めて食らうフェラチオの刺激に戸惑う彼に、母は優しく声を掛けてあげるのです。
そして、こうも判断するのです。『この子、すぐに逝っちゃうわぁ~。』と。
母の考えは正しかった。時間にして数秒。『ウウゥ~…、』と言って、彼が身体を震わせたのが最後でした。
暗闇の中、母の鼻に一瞬だけ香った、男の精液の匂い。危険を感じた母は、その顔を逃がそうとします。しかし、僅かにその行動は間に合いませんでした。
母の予想通り、この時すでに白い液体は宙に舞っていたのです。
母の頬へとボタボタとそれは落ちて来ました。頬だけではありません。栗色のショートのヘアーにまで、飛び掛かってしまいました。
母は慌てることなく、足元のバッグからハンドティッシュを抜き取ると、彼の下腹部を拭いてあげます。
暗くてよくは見えませんが、全体が精液にまみれてしまっていることでしょう。
『これ。自分で拭いて。』、そう言って彼に数枚のティッシュを手渡すと、今度は自分の顔の汚れを拭き取り始めました。
顔や髪についた男の精液。気持ち悪さを感じながらも、彼のために冷静さだけは保とうと振る舞うのです。
『初めてだったー?…、気持ちよかったー?…、いつ使うか分からないんだから、チンポくらい、いつもちゃんときれいにしとけぇー!』
母の言葉を、はにかみながら彼は聞いていました。しかし頭の中で、まだその整理はついてはいませんでした。
そして、5日後。
その日、出勤をした母でしたが、どこか落ち着きがありません。稲原くんの姿を見れば、また自分がいたずら心で誘惑をしてしまうかもと考えてしまうのです。
『あれもさせてみよう、これもやらせてみよう、』、心の中は純情な彼氏をもてあそぼうと想像は膨らみます。
しかし、残念ながら彼は現れませんでした。それだけでなく、翌月のシフト表からも『稲原』という名前は完全に消え去ってしまうのです。
彼が辞めた理由。もちろん、僕の母のこともありますが、問題は彼自身の方にありました。確かに気弱な彼は、気の強い女性に憧れを持っていました。
自分をリードしてくれると考えていたからです。そして、隣の部屋から聞こえてきた、あの強い女の声。
『お前、向こう行け!ほら、』『なに考えとんのや、コイツはー…、』、こんな汚ない言葉を吐く女。
しかし、ベッドでは『アァ~ン!…、アァ~ン!…、』と男の言いなりとなっていました。幼い彼には、顔も見えないこの女こそが理想の女性だったのです。
そんな彼は、性格のキツい母に憧れを抱きます。そして、話をすれば優しく接してくれる母に理想を重ね合わすのです。
仲良く話をしてくれる彼女、時に叱ってくれる彼女、そして、キスをさせてくれる彼女。彼の妄想は膨れていました。
しかし、考えていたのはそこまででした。セックスやフェラチオにまでは、彼の中ではまだシミュレーションはされてなかったのです。
されるがままにチンポを握って擦られ、されるがままに舌で舐められて射精をしてしまった自分。その女は、そんな大事なことしたはずなのに冷静でいた。
それが、今の彼には理解が出来なかったのです。母に対し、『怖さ』『冷たさ』を感じてしまったようです。会うことが、恐くなったのでしょう。
母は自宅から、一度だけ稲原さんへ電話をしています。もちろん、彼がその電話に出ることはありません。
居なくなった理解が分からないだけに、母の心の中にはモヤモヤだけが残ります。キッチンのテーブルに顔を埋め、そこで考えたのはあるカップルのこと。
男は自分の息子、女は近所に住む60代のおばさんです。『なんで、あの女なのよー!』、そう息子に叱った思い出。あの時は、本気でした。
しかし、自分がしてしまおうとしたことは、それと何ら変わりないことが分かります。
今回の件で、ようやくですが、息子とその女性の気持ちも少しだけ分かったような気がします。
立ち上がった母は、すぐにこんなことを考えていました。
『ふう~…。オナニーしよ…。』
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