『新しい人?』
フロントに座る母に声を掛けてきたのは、常連と思われるお客だった。60歳くらいだろうか、隣には同い年くらいの女性を連れています。
ホテルの接客の指導を受け始めて、まだ三日目。母にはそんな余裕はなく、『はい、よろしくお願いします!』ととんちんかんな返事をしてしまっていた。
隣に立つ、先輩の視線が気になってしまう。案の定だろうか、その男性は立ち去ろうとはせず、母に興味を示し始めてしまう。
『姉さん、べっぴんさんやのぉ~?このまま、ワシと部屋行くかぁ~?胸、しっかり揉んだるわぁ~。』
からかうように言い放ち、フロントの窓越しに母を見詰める男。しかし、母にはそれは通じないようだ。
眉ひとつ動かすこともなく、男性を見詰め返す母の姿がそこにありました。おかげで、アテが外れた男性は、連れの女性と部屋へと消えていくのです。
母がホテルで働き始め、初めての夜勤は土曜日の夜となった。仕事にも馴れ、余裕のようなものも出来てきたようだ。
午後7時前となり、夜間の掃除係のパートの女性達が現れ始める。ただ、みなさん年齢は高く、母ですから『おばさん。』と見えてしまっている。
そして、午後7時。時間ギリギリに飛び込んで来たのは、若い男の子。このホテルで働く唯一の男性で、土曜日の夜にだけ仕事に来ている。
なので、彼の存在は知っていても、実際に母が顔を合わすのは、この日が初めてであった。名前は『稲原くん』、年齢は19歳だそうだ。
『稲原さんですか?初めて会えましたねぇ?私、松下です。よろしくお願いします。』
タイムカードを押し終えた彼はペコリと頭を下げ、仕事場へと向かいました。『まだ19歳だからねぇ?』、ちゃんと挨拶も出来ない彼を見て、そう思う母でした。
時間は深夜1時。土曜日の夜ですが、さすがに客足は止まります。そして、仕事を終えた掃除係が事務所へと降りて来ました。
しかし、タイムカードが押されたのは二人分。まだ、稲原くんの姿が見えません。『ああ、あの子、シャワー浴びて帰るの。』とおばさん達が言います。
『ああ、そうですか。30分くらい?』と母が聞くと、『15分くらいやねぇ。』と返事が返されました。
彼が事務所に現れたのは、おばさん達が帰って10分くらいしてからのこと。『お疲れさまですっ!』と言って、入って来ました。
タイムカードを押し、帰ろうとする彼を見て、『あんた、ちょっと待ち~!』と母の声が飛びます。彼の姿を見て、声を掛けずにはいられなかったのです。
母は立ち上がると、早足で事務所の墨へと向かいます。そこに置かれていたのは、客用の黄色いバスタオル。それを手に取り、彼の元へと駆け寄ります。
『髪の毛、びしょびしょやないのぉ~。ドライヤーくらいあったでしょー?』、そう言いながら、濡れた髪をタオルで拭いてやるのです。
彼の手は、腰で固まっていました。それを見て、女性馴れをしてないことを母は見抜くのです。
『年、いくつー!』
『彼女はー!』
『可愛い顔してるんやから、ちゃんと髪くらい乾かせー!』
我が子を扱うようにからかった母でしたが、その反応は薄く、彼からの返事は『はい…。』とだけのささやかなもの。
しかし、この行動によって、彼の中に母の何かが残ってしまったのです。
『松下佳世』、52歳。栗色のショートヘアに、トレードマークとなる大きな鼻。この鼻をどう評価するかで、美人かどうかは分かれるところ。
胸は小さく、性格はきつめ。旦那とは現在別居中。子供は息子が一人。まあ、この年となれば、もうどこにでもいるおばさんです。
しかし、この夜。時間にして、深夜3時過ぎだろうか。このどこにでもいるおばさんをおかずに、一筋の精液が宙を待っている。19歳の少年だった…。
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