日曜日の朝、普段であれば加代子さんの家で寝ているかも知れないこの時間、僕は洗車のために自分の車の中にいました。
数日前から、『今度の日曜日はちょっと…。』と彼女に言われていて、前日に会うことも控えていたのです。
そんな僕の目に、ある車がとまります。それはタクシーでした。ウインカーを付け、加代子さんの家の前へと停められました。
そして、すぐに開かれるお店の扉。飛び出すように出て来たのは、腕にはハンドバッグ、紺のワンピースを着た彼女。外出用のおしゃれをしているようです。
彼女を乗せたタクシーは、そのまま東へと直進をし、僕の視界から消えてしまうのでした。
15分後、タクシーはあるファーストフードのお店に停まりました。彼女はそこで降りると、住宅地を歩きながら、目的地へと向かいます。
歩いて5分程度の道のり、見えてきたのは『リノ』という名のラブホテル。さすがにタクシーで乗り付ける勇気は、加代子さんにはなかったようです。
歩いて駐車場へと入った彼女。ホテルからは前日の夜にチェックインをしていた若いカップルが出てきて、彼女の隣を通り過ぎます。
視線を合わせないように身体を傾け、通り過ぎるのを待つのです。
そして、加代子さんの手にはスマホが持たれました。ダイアルをし、繋がったのはこのホテルに居るであろう男。
『川田さん?本当に来てくれたんですねぇ?僕、314号室にいますから。』
その男の声は、妙にはしゃいでいた。本命で狙っていた女が、予想通りに向こうからやって来たのだ。無理もない。
電話を終えた加代子さんは再び歩き始め、男が待つ客室へと向かうのでした。
314号室。中に居たのは、もちろん大野だった。彼は前日の夜からこの部屋に入り、しばらく一人の女性と過ごしている。熟女のデリヘル嬢だった。
その証拠は、ゴミ箱に捨てられたティッシュと避妊具。しかし、本命の女性がここへ向かっているのを知っていて、あえて彼は片付けようとはしない。
彼なりの計算があったのです。
大野は立ち上がると、全裸の上からバスローブだけを羽織る。乱れた布団だけは敷き直し、玄関へと向かう。
『あと数分、いや数秒かもしれない…。』、彼の気は急いていました。憧れた川田加代子が、自分に抱かれるためにここへとやってくるのです。
そして、シミュレーションされる展開。『玄関に入った彼女は、すぐには部屋にはあがらないだろう。しばらく話をし、ダメなら無理矢理に引き込もう。
ベッドに押し倒し、あとはいつものように馴れたその手で女をその気にさせればいい。』、そんなつもりだった。
『ピンポーン~!』
チャイムが鳴った。大野の予想より、2~3分の違いはあったのかも知れない。『それでも計画は狂わない。』、そう思って、彼はドアを開くのです。
そこには、確かに川田加代子が立っていました。しかし、大野の顔から笑顔は消えます。そこには彼も知らない、一人の若者の姿もあったからです。
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