午前8時。僕と母は、町内の集会場へと来ていた。昨日言っていた、町内のゴミ拾いのためである。
前回よりも少しゆっくりと伊江を出たためか、広場にはもう多くの人が訪れていました。もちろん、その中には加代子さんの姿もあります。
めずらしくTシャツで、掃除をする格好をしています。その周りを、数人のおばさん質が囲んでいました。
聞こえてくるのは、やはり臨時休業をしていた時の話。そして、1日余計に休んでしまった、その理由だったようです。
その輪の中に、うちの母も入っていっています。おばさん達が集まれば話をする声は大きく、まだ朝なのに笑い声は耐えません。
ゴミ拾いも終わり、家へと戻った僕と母。寝足りない僕はそのままお昼まで眠り続け、母の『ごはんよー!』の声で起こされました。
食事をしながら考えていたのは、この日の夜のこと。仕事を終えた加代子さんと会う約束があり、その予定をいろいろとシミュレーションしたりします。
母には申し訳ないですが、出された昼食代もあまり味わってはなかったかも知れません。
ご飯を食べ終え、『もうちょっと寝るわぁ~。』と母に告げた時、『ちょっと待ちなぁ~?』と呼び止められます。
『また、いつもの買い物の頼みか?』と思いながら、『なにー?』というと、母がこんなことを言い始めるのです。
『お前聞くけど、この4日間、どこ行ってたの~?最後の1日、お前帰れなくなったって言ってたけど、なにがあったの~?』
その一言に、僕は凍りついていまいました。外出を疑われているのではなく、きっと母は川田のおばさんとのことを疑い始めているのです。
僕の中へでは、今朝の光景が繰り返されていました。加代子さんの周りに集まるおばさん達。その中へ、確かに加わっていった母の姿を…。
『友達と遊びに行ってたからなぁ~。最後は、乗り遅れて、その日帰れなくなったんよ~。どうして~?』
何とか口にした言い訳。しかし、その言葉を信じてはいない母が分かりました。僕の母です、息子の僕にはそれはよく分かります。
そして、『ちょっと、おかしいなぁ~と思って。川田さんも1日帰るの遅れたみたいだから。何か有るのかと思って…。』とついに母の口からその名が出ます。
身体が震えました。何も分かってないと思っていた母親が、ついにそこまで来ていることに…。
うちの母親と加代子さんとは、そんなに中がいい訳ではない。息子2人が幼なじみでなければ、近所同士でも話などしないであろう。
母の方が年下でもあり、気持ちも若いため、性格的にも真面目な川田さん夫妻とはあまり合わないのです。
そして、加代子さんの容姿。それは母から見ても美人に見え、『きれいな年上の女性』という認識しかない。それが、母の気持ちを逆撫でしてしまうのです。
母の目の前に突然現れた女性。それは、父や母よりも年上のきれいな女性でした。そして、その隣には父の姿がありました。
泣く母を見ながら、二人は頭を下げたのです。その女性も泣いていました。母から、父を奪っていくのですから。
きれいな真面目そうな年上の女性でした。しかし、それ以来、そんな人に母の心は拒絶心を持ってしまうのでした。
『分かった…。お母さん、信じるから…。あなたの言葉、お母さんは信じます…。』
母の言葉がとても重かった。ベッドで目を閉じるが、浮かんでくるのは、怒り狂った母が加代子さんを怒鳴り上げる姿でした。
加代子さんは正座をし、涙を流しながら手を着いて何度も謝っています。そんな場面が本当に訪れたら、僕はどんな行動をしてしまうのだろうか…。
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