【act 5 ~ 亡霊 ~ 】
『ゆっくりしてぇ~…、ゆっくりして欲しい…、』
薄暗い灯りの中、彼女の口からはまたこの言葉が聞こえて来た。その度に僕の勢いは殺されてしまい、彼女の身体を扱う手も慎重になってしまう。
導かれた身体は、ベッドに転がる彼女の背中に張り付き、その体勢のまま挿入をされたチンポは止まってしまうのです。
快楽を求めよりも、長く時間を掛けてお互いの気持ちを確かめ合う交尾。この日の彼女は、それを望んだのです。
舌はうなじを舐め、前に回した手は大きな乳房を揉みました。彼女の口からは、『アァ~…、ハァ~…、』と吐息があがります。
その声に興奮をしたチンポは萎えることはなく、受け入れた彼女の身体もソレを優しく包み込んでくれてもいます。
しかし、どこか僕にはもの足らない。というよりも、別の何かがジャマをしているような感じがするのです。
『夫婦としての営み。』
彼女が望んだのは、きっとそういったもの。ずっと安らぎを与えてくれる、そんな交尾に違いありません。
そんなセックスに付き合っていた僕でしたが、そんな僕にこんな感情が芽生えます。
『なに、これ?…、お前、誰だよ…、』
という、彼女への不信。同時に現れて来たのは、忘れかけていたあの男性の姿でした。
『川田一矢…、』
僕は『川田のおじさん。』と呼んでいましたが、会ったことも話したこともほとんどなく、亡くなったことで記憶の中からは消されつつありました。
しかし、彼女の『アァ~…、アァ~…、』とあげる声がどこか手慣れているような気がして、その男性を思い起こさせてしまうのです。
長く妻をやって来た彼女。毎晩のように旦那さんに抱かれ、こんなセックスを何百回、何千回とやってきたのでしょう。
それは、僕の知らない加代子さんの姿。『僕ではなく、他の男に仕込まれた。』と言う汚なさ。分かっていても納得が出来ない己の幼さを感じるのです。
加代子さんの身体は、僕の手で仰向けにされていました。見えた顔はどこか満足気で、それがやけに遠く感じます。
『お前、いま誰に抱かれてたんだよぉ~?…、』
そんな気持ちが僕を支配していました。嫉妬、それは完全に嫉妬に違いありません。旦那に先に寝取られてしまった、僕の嫉妬でした。
彼女の上に乗り上げると、手をベッドへと押さえつけ、唇を奪います。『ゆっくりしてぇ~…、』と言ってくる言葉も耳には届きません。
激しいキスで、彼女から何かを取り戻そうとしてしまうのです。『加代子ぉ~…、加代子ぉ~…、』と言って、絡み合う舌と舌。
唾液が交換され、彼女のものを口の中へと流し込みます。しかし、それでも思ったような感覚は得られないのです。
『加代子ぉ~…、どうしよ…、僕、ダメかも…。』
僕は彼女に助けを求めていました。『なにぃ~?どうしたの~?…、』と優しく聞いてくれる、いつもの加代子さん。
しかし、その男性の名前は口には出すことは出来ません。出したことで、みっともなく思われることが怖かったのです。
誰にも言えず、やりきれない思いが僕の中に駆けめぐっていました。そんな彼女の両手が、僕の腕に掛けられます。
普段ではなくなった僕を、心から心配をしてくれているのです。
『何があったのか、ちゃんとお話をして?…、私が何か悪いこととかしちゃったぁ~?…、』
優しい声でした。母親のような、とても優しい言葉でした。しかし、その温かい声は、僕の耳にはちゃんと届きませんでした…。
僕の手は、下半身で勃起をしたチンポを掴んでいました。それはもう、彼女の股間へとあてられていました。
これだけ僕を心配して、温かい声を掛けてくれる優しい彼女を、僕は犯そうとしているのです。
今の僕を満足させてくれるのは、母親のような彼女ではありません。僕のチンポでよがり、ひれ伏せていくそんな彼女の姿なのです。
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