『ちょっ…、ちょっと待ってもらえますか?…、』
あまりの逃げ腰の態度に、意気がろうとしていたはずの僕の言葉も少し和らいでしまいます。切られては藻とも子もありません。
そして、『はい~?』と惚けたような返事をしてくるその男に、やはりどこか異常性を感じてしまうのです。
話をする声はまさに中年。しかし、その話し方は明らかに世間慣れをしておらず、まるで子供のようです。
『すいません。ケンカをするつもりはないですから。ただ、会って話したいことがあるんです?』、話しをする僕も、その日一言一言に注意を払っています。
しかし彼はつけあがり、『また今度でいいやろ~?もう遅いし…。こっちから、また連絡しますよ~?』と逃げの常套手段で返して来ました。
あまりに不甲斐ないこの中年の男。20歳も年下の僕に、何も言い返すをことしない。結局、そうやって逃げ回って生きてきているのです。
『なら、率直にお話します。あっ!なんなら、今からこちらからお伺いを致しますが。』
もちろん、彼はそれには拒否をしてきます。そんな彼に、『行きます!お母様もおられるんでしょ?一緒に聞いてもらいますから。』と脅してみます。
そんな彼から出た言葉は…、『すぐ終わりますか?5分くらいで…。』、人を食ったような話し方、そして小馬鹿にしたその内容に怒りが込み上げてきます。
頭にはきた僕は、『お前、出てくるんか、来んのかぁ~!それともそっちに来て欲しいんか?お前が決めろ!!』と爆発をしてしまうのです。
一時間後。お店の扉が開き、『こんばんわぁ~!』と大きな声が聞こえた。出迎えた僕の顔を見て、彼の顔色が変わってしまう。
『どうぞ?』と加代子さんが奥へと向かえようとすると、駐車場に停めてある車が見えた。エンジンは掛けられたままで、その助手席には誰かが乗っている。
僕に気づいた彼は、『ああ、友達を待たしてるんで…。』と言って、カーテンを閉めてしまいます。
なんて情けない男なのだろうか。一人じゃ来れなくて、友達まで巻き込んでいるのです。
初めて見た、その男の顔。とても46歳には見えません。もっと若く感じます。それは褒め言葉でもあり、半分はけなしてもいました。
それだけ、この男は苦労をして来てはいない、社会に揉まれてないのです。
リビングに入ります。ソファーに座った僕達に対して、彼は床へ座ります。正座をしたということは、やはり詫るつもりで来ているようです。
それでも、『話って、なんですか?』と聞いて来ます。僕は、『これ。』と言って、落ちていたコンドームを見せました。
もちろん、枯れの目の色は変わります。しかし、『なにこれぇ~!?私は知らんよぉ~?』と惚けます。
しかし、そんなことは僕にはどうでもいいことだった。
『いいよ。それ捨てればいい…。けどな、お前、この人に何をしたぁ~!仏壇の部屋で、俺の女に何をしたぁ~!言えぇ~!!』
これが本題だった…。
コンドームを使いながら、加代子さんでオナニーをしたことはまだ許せる。しかし、力強くで強姦紛いの行為をしようとしたことだけは、どうしても許せない。
信哉の顔から血の気が引いていく。頭は下がり、目はうつろになる。太股の上に置かれている拳には、強い力が入ってしまっています。
『それは謝ります。すいません…。』、絞り出すように彼の口から出た謝罪の言葉。しかし、僕と加代子さんは、更に彼の異常さをみることになります。
『私、加代さんが好きなんです…。誰もホラ、私なんか相手にしてくれんでしょ?だから、加代さんだったら、セックスとか教えてもらえると思ったんです?
私と従姉やろ?…、なんて言うのか、親戚のよしみ?…、もうなんでもよかったんです?…、させてくれるなら、誰でもよかったんです?…だって…』
支離滅裂な言い訳を繰り返す男。大汗を掻き、浮かんで来ない言葉を必死に探していました。
あまりの情けなさに、僕の怒りは収まっていきます。惨め過ぎて、逆にこの男に同情さえ感じてしまうのです。
しかし、隣に座る加代子さんは違っていたようです。『なら、私はどうなるのぉ~!…、信哉さんのこと信じてたのよぉ~!…、』と大きな声を張り上げます。
収まっていたはずの涙は溢れ、それでも目は彼から離しません。彼女もこの勝負どころは譲らない。
子供を持つ母親としての使命のようなものが、そうさせているのでしょう。
信哉さんの両手が床につき、『どうもすいませんでしたぁ~~!』と言って頭を下げます。しかし、その声は震え始め、枯れもまた号泣するのです。
その姿はまるで子供。苦労も知らず、泣きなれてないのか、小学生のように泣き喚いていました。
『俺が悪い…、俺が悪い…、死んだほうがいいんやぁ~!…、』、これが10分以上も続いてしまうのですから。
落ち着きを取り戻したの信哉さん。話しも終わり、テーブルには飲み物が出されました。彼が僕に、『46で童貞ってありえんやろ?』と聞いて来ます。
しかし
僕は、こんなことを口にしていました。『けど、なんで?信哉さん、結構イケメンよ?』と。
すると、加代子さんも『そうでしょ~。結構男前でしょ~。』と言って、微笑みます。実はこれ、嘘でもなんでもありません。
この信哉さんが46歳にしては若く見えるのは、可愛らしい童顔から来ているのです。そこそこの顔立ちなのです。
そんな彼に、『風俗とか行けば?ちゃんと向こうが全部やってくれると思うよ?』と言うと、『そうか?なら、一緒に行ってくれるか?』と返されました。
『ほんとにぃ~!?』と笑って答える僕でしたが、とても加代子さんの顔を見ることは出来ません。
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