『ナオミチちゃん!ナオミチちゃん!落ち着こう!おばちゃん、怖いから…。』、身を屈めたおばさんはそう言っています。
乗り掛かってしまっていると思った僕は、おばさんの身体から離れました。彼女が頭を上げると、髪は少し乱れ、見たこともない表情になっています。
それでも、おばさんは怒りはしませんでした。ちゃんと笑顔を作り、『ビックリしたわぁ~。もぉ~。』と言ってくれるのです。
身体を起こしたおばさん。それはいつもの彼女で、佇まいからは性的なものを感じさせません。どこか、性には無縁のような雰囲気があります。
そんな彼女を見て、『よくこの人にあんなことが出来たなぁ~。』と自分のやったことに驚くのです。
そして、おばさんが怒らなかった理由。それは、やっぱり僕に恩を感じてくれていたのかも知れません。
僕と川田くんは幼なじみではありましたが、親友ってほどのものではありませんでした。一緒に遊んでいただけって感覚です。
ただ、彼は性格的に友達は少なく、友達と言えるのは僕くらいしか居なかったのかもしれません。
彼の死を知っても訪れる友人がいないことが、それを物語っています。
なので、おばちゃんにとって僕は『息子の一番のお友達。』、きっとそうなのです。
『おばちゃんが好きって言ったら、やっぱり怒る?』と聞くと、『怒らないけど、困るぅ~。』と言われました。
『抱き締めさせてって言ったら、怒る?』と聞くと、『困る、困る、そんなのは、おばちゃんは出来ないわぁ。』と言われます。
『なら、ハグは?ハグ。お別れの挨拶みたいなものやろ~。』と言い、手を広げておばさんに迫ります。
重心は後ろに逃げ、両手を胸元に抱えたまま、おばさんの身体は止まりました。逃げた顔から、目だけはこちらを向いています。
僕の両手が彼女を包み込もうとすると、おばさんの身体僅かに斜めになります。完全に嫌がられているハグです。
少しこそばゆいのか、首元が伸びています。
ハグも終わり、おばさんを離すと少し安心したような表情を見せていました。それよりも、嫌だったとはいえ、ここまで避けられるとも思いませんでした。
ハグ程度のこと、普通にしてくれても良さそうにも思います。もしかして、そういうことが苦手な人なのかも知れません。
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