仏壇の前で鮫島があぐらをかいて座っている。
捕らえた獲物を逃すまいと、切れ長の目でじっと亜希子を見ている。
『亜希子さん、もう観念しなよ。死んだ旦那も公認なんだ、俺と一緒になろうじゃないか』
「それはあなたの勝手な作り話じゃない!」
亜希子は語気を強め鮫島を睨んだ。
『いいねぇその目つき。そのくらい強くねぇと男社会のこの街ではやってけねぇよな』
その言葉に亜希子はさらに彼をキツく睨みつけた。
『おいおい、そんなにがっつり睨まれちゃ驚いてムスコが勃っちまうじゃねぇか 笑』
鮫島は股間の棒状の膨らみを右手でぎゅっと握り、亜希子に見せつけた。
半笑いだった鮫島がふと真顔になり、嫌悪する亜希子に向かって話し始めた。
『あんたのとこの工場はよぉ、毎度毎度俺が仕事をまわしてやんなきゃ食ってけねぇだろ? あんた、そこんとこ忘れちゃいねぇか?』
亜希子が悔しそうに床に視線を落とす。
『ハハハ、図星だろ? 先代のときは週末は高級ソープで接待してくれてたからな、まぁそれでよしとしてやってたんだが、あんたに代わってからはどうだ? なんの見返りもねぇじゃねぇか!』
鋭い視線と言葉で亜希子に迫る鮫島。
「それはしっかりとお仕事の成果としてお返ししているじゃありませんか。それに、いつもうちの仕事ぶりには満足してるって、そう仰ってたのに...」
それを聞いた鮫島の左の口角がニタりと持ち上がる。
『あくまで“仕事”にはな。ったく、言わせんなよ、俺は大人の見返りが欲しいって言ってんだよ。なぁここまで言えばもう分かってくれるだろ? 頭のキレる立派な女社長さんよぉ』
勝ち誇った表情の鮫島。
亜希子の肩は静かに震えていた。
しばらく沈黙が続いた後、亜希子はなんとか声を絞り出すように口を開いた。
「...どうすれば...よろしいですか...」
『亜希子さん、あんたも社長の端くれなら自分の頭で考えてみたらどうだ。このご時世、みすみす仕事を減らしたくはねぇだろ?』
亜希子は仏壇に飾られた亡き夫の遺影を見つめると、目からは一筋の涙が溢れた。
(あなた...ごめんなさい...)
亜希子はゆっくりと立ち上がり、座る鮫島に視線を移した。
この先の展開を期待する鮫島の顔は酷く醜かった。
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