一周忌法要の当日、天気は朝からあいにくの雨。
法要には、トミタモータースの工員達をはじめ前社長を慕っていた同じ工場街の面々や取引先の人間も多く参列し、午前中のうちにしめやかに終わった。
雨の中、参列者達に深々と頭を下げて見送る亜希子。
そんな彼女を少し離れたところから他とは違う眼差しで見つめる一人の男がいた。
その男は同じ工場街で板金屋を営む鮫島である。
自動車修理と板金屋というのは切っても切れない縁があり、前社長の頃から仕事を融通する間柄だった。その関係は亜希子が社長になった今でも続いている。
この鮫島という男、50近い独身男で以前から亜希子に好意を抱いていた。前社長が亡くなってからは事あるごとに工場を訪れては彼女に言い寄っていたのだった。
『亜希子さん』
鮫島の低くねっとりとした声が亜希子の背後から刺さる。
一瞬、彼女の肩が硬直したように見えた。
『今日は大変だったねぇ、お疲れ様』
「さ、鮫島さん、、こちらこそ今日は主人のためにありがとうございました」
鮫島の舐めるような視線が亜希子にまとわりつく。まるで黒い和装の喪服に包まれた彼女の熟れた肢体を舐め回しているように感じられる。
その視線に気付いた亜希子が手でそっと胸元を押さえる。
『なぁ亜希子さん、もう少し先代と思い出話をしてぇんだが、、中で線香あげさせてくんねぇかな?』
亜希子は躊躇った。
しかし断る理由が見つからず、最後にただ一人残った彼を工場の隣にある自宅へと案内した。
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