俺は頭が熱を帯びて何も考えられなくなっていた。暗い物置の中で叱られた子供のようにしゃがみこみ、昔のことをあれこれ
思い出していた。学生の頃、人一倍女好きなくせにモテない俺は、イケメンの同級生がかわいい女子を次々に餌食にする様を、
指を咥えて見ている他なかった。イケメンの男子は何故か俺と仲がいい奴が多く、その友人たちの自慢話しをよく聞かされた。
俺はいつも良識的なニコニコ顔で、「相変わらず凄いなあ。」とか言って聞き役を演じていた。一人だけ美人で孤高を保っている
女子を俺は好きになり積極的に近づいたが、その女子はかなり年上の妻子ある社会人と付き合っていたことが後で分かった。
結局、真面目に勉強して良い会社に就職して、経済的にしっかりすれば良い女に出会うという、親の言葉を信じて生きるしか
なかった。1か月前まではその生き方が正解だったと思っていた。だが脆くもその美しい信念は崩れ去ったのだ。
イヤホンの音声は、山崎が逝ったらしく、汗をかいたからシャワーを浴びようと、二人で浴室に行くことにした様子だった。
やがて二人が階段を降りる音がして、浴室に入ったようだった。俺は起き上がると物置を出て立ち去ることにした。
物置の戸を開けると廊下に点々と白い液体が落ちていた。俺はすぐにそれが妻の股間から垂れ落ちた精液だと分かった。
さっきはよほど大量の精液を妻は注ぎ込まれたのだろう。階段から浴室へ向かって、猫の足跡のようにそれは続いていた。
俺はその白い液体を指に付けて匂いを嗅いでみた。他人の精液の匂いは知らないが妻の愛液と混ざって奇妙な匂いだった。
急に二人が浴室から出る音がして、俺は再び物置に入った。今二人に見つかることは俺にとっては恥だった。
「嫌だ、あなたのザーメンが廊下に落ちてる。」
妻が何かで廊下に落ちた精液を拭き取る音がした。それから二人は二階の寝室に上がっていった。
再び寝室の盗聴器からの二人の会話が聞こえて来た。飲み物、おそらくビールの缶を開ける音がした。
「奥さんは先輩の単身赴任の理由聞いてるの?」
「ええ、取引先を怒らせた、て言っていたワ。でもそれ以上は知らないの。」
「先輩はね、取引先の機密事項が入ったUSBメモリーを失くしちゃったんだ。それで飛ばされたんだ。本人は1、2年て言ってるけど。」
「ちがうの?」
「俺にはわからない。上の考えることだから。」
俺はその会話を聞いて顔から血の気が引いた。俺が取引先を怒らせたことは同じ部署の人間なら知っていることだ。だが、
USBメモリーを失くしたことは一部の人間しか知らないことだった。なぜかというと、社内の誰かが盗んだ可能性があり、それを
密かに調査している最中だからだった。時々競争相手に会社の重要情報が流れているのを社の上層部は把握していた。
そんな男には見えなかったが山崎を疑う気持ちがムラムラと俺の心に湧いてきた。
「それはそうと、奥さんが昔AVに出てたの、先輩まだ知らないんでしょ。単身赴任先でAV見てる男多いから、みつからないかな?」
俺は再び頭から冷水を浴びせられた気がした。俺の妻がAVに出てた?聞いてないぞ、そんなこと。
「ちょっと、脅かさないでよ。もうだいぶ前のことなんだから。1年ちょっとの間だけだし。すぐやめたし。」
「でも100本以上出たて言ってたでしょ。」
「ちょっとアンタ、黙りなさい。」
それからキスする音が聞こえ始めた。俺はショックが大きすぎて、泣くとか、怒るとか、どう反応していいかも分からないほど
心の中がぐちゃぐちゃで混乱していた。
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