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その日、R田がメールで指定してきた店は最寄りのJRの駅から数駅上った駅の近くにあるカウンター席だけのこじんまりとした寿司屋だった。閑静な住宅街のなかにあり、客は我々だけだった。料理は店主にまかせ、お通しと生ビールが出てきた時点で早速本題にはいった。
「R田、うちの医局の秘書さんはみたことあるか?」
「なにいってんすか。もちろん知ってますよ。我々の仲間うちではあの病院でヤりたい熟女のツートップのひとりですよ。たしかぁ、□□さんですよね。珍しい苗字だし、覚えやすい。あとひとりは外科の医局秘書の××さん。先生も知っているでしょ。」
「あぁ外科のあの人かぁ、確かにきれいだね。しかしお前らの情報網は相変わらずすごいな。彼女のことを知っているなら話がはやい。単刀直入にいうけど、今度うちの秘書さん口説いてみてくれないか?」
「えっ!なんすか、それ?先生が興味あるなら自分で口説けばいいじゃないですか?」
「当然そうかえってくると思っていたけど、それがさぁ、これもひとつのネトラレ癖なのかなぁ、いやいや別に秘書さんと俺はなんの関係もないし、彼女の夫でもないし、ネトラレではないか。実はさぁ、この前あることが起こってからというもの俺は傍観者として、あの堅そうだけど、何かそうでもないような主婦が男で変わるのか、変わるとしたらどんなふうに変わるのか観察したいという願望が日に日に大きくなってきてしまってね。」
ややしどろもどろになりながら、彼女があの軽薄そうなダブルスペアに誘われて、飲みに出かける日の装いの変化、あのとき白衣に浮き立ったエロティックな下着、それを見た自分の異常なまでの昂ぶり、そしてどうやら何事もなく終わったことを示唆する後日談についてありのままに話した。
R田は黙って聴いていたが、「なるほど。よくわかりました。でもなんで俺なんすか?」と当然の質問を浴びせてくる。「こんな変なことを頼める人間が他にいると思う?しかも頼んだところで箸にも棒にもかからなきゃ意味ないし。」と予め用意していた答えを述べる。実際、R田は180cmを超える長身に、少し中性的な雰囲気の整った甘いマスクに恵まれ、祖父は都内の一等地の大地主だったらしく、育ちの良さがその物腰に滲み出ており、女性にはめっぽうモテる。彼に誘われていい気分にならない女性はあまりいないだろう。ふたりで飲むときは仕事や病院、医療の話は極力したくなかったので、彼自身に確認したことはないが、彼が乗るポルシェマカンは彼に入れあげた眼科クリニックの女性院長が彼に贈ったものであるという噂もあながち嘘ではないだろう。ただ彼に美〇子を口説いて欲しいと思った最大の理由はそこではなかった。R田は彼女のダブルスペアによく似ていたのだ。女性に悪い印象を与えないと自覚している人間が醸し出す、一種独特の軽薄さ。女性が優しさと勘違いする慇懃さに隠されたサディズム。外見だけではない多くの共通項がこのふたりの男の間に存在するように思えた。
R田に医局秘書の出勤の曜日と時間、比較的医師が出はらい彼女が医局でひとりになり易い時間帯を細かく教え、ときどき進捗を知りたいと伝えた。
「じゃあ秘書さんを口説いて、その経過を逐一報告してほしいってことですね、了解です。彼女真面目そうだし、難攻不落な感じですけどダメ元でやってみますよ。」
「さすが、話がはやいよ、R田。なんらかの形で礼はする。」
「何いってんすか。こっちこそお世話になりっぱなしで。そういえば先生に教えてもらった例のアメリカ製のアレ。凄くいい感じで耐久性もありそうだし、買ってよかったです。」
そこからはいつもの様に趣味の話で盛り上がり、酒もかなりすすんだ。
そろそろお開きだと会計を済ませ、遠くまで帰らなければならない彼の為にタクシーを1台頼んだ。タクシーの運転手が到着を知らせるため、入店してくるとR田はおもむろにスマートフォンを取り出し、「先生のとこの秘書さんもこうなった姿をお見せできるように頑張りますよ。少しは期待しててください。」と、手にしたそれの画面を見せてきた。そこに写っていたのは全裸でM字に開脚し、両手でヴァギナを広げてほほ笑む女性の姿だった。その人物は本院救急科の元主任看護師であり、現在は同期T本先生の愛妻となっているはずのK恵の姿だった。
槌
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