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病院や医局には製薬会社の営業担当者、所謂エムアール(Medical Representative)という人間たちが出入りしている。彼らは仕事柄かスーツの着こなしや所作もこなれており、医者の私がいうのも抵抗があるが、院内をうろつく我々の同業者たちよりもはるかにあか抜けてみえる。実際、卒業したての若い看護師たちにしてみれば、昔ほど高給取りでもない若い勤務医なんぞに誘われるよりも、こじゃれた店や女の扱いに精通した見た目もよいMRのほうが遊び相手としても魅力的に映るらしいと佐〇子からきいたことがある。
そのMRのなかに都内の本院に勤めていた頃より懇意にしていたR田という、私よりふたつ年下の男がいた。私よりも1年先だって千葉に異動となったが、後を追うように私が千葉に赴任したため、またもや院内で顔を合わせるようなった。お互いの趣味(珍しい趣味であるため、同好の士がこれを読んでいた場合、個人が特定される恐れがあり、ここでは伏せさせていただく)が一致していたため、何度も個人的に飲みに出かけた仲だった。彼は千葉への異動に伴って扱う領域も変わったため、うちの医局に出入りすることはなかったが、ときどき外来のあるフロアで出くわす。
数日前から私は彼を探していたのだが、彼をみつけると偶然出くわしたかのように声をかけた。
「R田さん、最近どうですか?」
「はい、おかげ様でなんとか。」
彼のことだ、そうは言いつつも営業成績はいいのだろう。距離をつめ、周囲に聴こえないようにR田に顔を近づける。
「今晩、空いてるか?もし空いてたらちょっとつきあってくれないか?」
「ひとつ他の医局の説明会がはいっていますが、7時には空きますよ。ゆっくり話せる隠れ家的な寿司屋みつけたのでそこでやりましょう。7時半から予約入れときます。後でメールします。いつもごちそうになりっぱなしだし、今回は俺持ちますから。」
「ありがとね。誘った以上俺がもつから、そっちは気を遣わないでくれ。」
「では後ほど。」
こちらのトーンで一を見て十を知るというやつだ。やっぱり有能な人間は違うなと思った。
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