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都内の自宅マンションに着いた頃にはすでに午後9時をまわっていた。家族も妻を残して寝てしまっていた。駅で買ったスイーツをみせると、すでに寝支度を整えていた妻もこれからコーヒーを淹れるといってくれた。私は自宅に着いたら先ず確認しようと決めていたことを実行に移した。妻は洗面台のキャビネットに置いた陶器製の灰皿の様な器に普段使いするお気に入りのイヤリングを入れている。金属アレルギーのある妻はお気に入りのイヤリングがあってもつけることができない。気に入った物がみつかったが金属製の物しかない時はピアス部もしくは金属の留め金部をはずして、樹脂製の留め具に交換してやるのが私の仕事だ。そんな事情もあって、妻のイヤリングの置き場所や種類はある程度は把握していた。洗面台で手を洗いながらキャビネットを開け、陶器製の器の中身を確認した。5対ほどの動物に関連したものをモチーフにしたイヤリングが無造作に入れてあったが、妻の大のお気に入りであり、ヘビーローテーションしていた肉球のイヤリングはなかった。
寝室で部屋着に着かえてから、ダイニングに戻るとすでにコーヒーと土産のスイーツがテーブルに並べられていた。いつものように日常の出来事を話題にとりとめもない会話をするなかでそれとなくイヤリングの話題をだしてみた。最近は留め具が外れたりして修理が必要なものはないのかと。
「とりあえず大丈夫かな。あっ、でもワンちゃんの肉球のやつがあったじゃない。あれ凄く気に入っていたんだけど、どこかで片方落としちゃって。あるようでなかなかああいう小ぶりで目立たないデザインのってないのよね。残念。」
「残りの片方はどうしたの?」
「いちおうしまってあるけど?」
「どんなのか見せてよ。どこかでみつかるかもわからないし。」
相槌うちながら、妻は椅子から立ち上がり寝室に消えたが、すぐにひとつのイヤリングを片手に戻ってきた。
「これなのよぉ。」
それは私がR田の家でみつけたあのイヤリングと全く同型のものだった。
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