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文庫本を開いたものの、これから、ここで起きることに対する期待と興奮で落ち着かなかった。本を置いたり、再び手に取ったりしながら時間が過ぎるのを待った。イヤリングのことも気になった。このイヤリングは妻のものなのだろうか、このペットブームのなか、肉球のイヤリングをしている女性なんぞはたくさんいるであろうし、仮住まいとはいえ、R田の住むこのマンションに出入りしている女性も決して少なくないだろう。R田に直接聞けばいいことだが、なぜかこのイヤリングをみつけた瞬間、とっさにポケットに入れようとした自分がいた。もしもこのイヤリングが妻のものならば、妻はこの部屋にはいったことがあると考えて間違いないだろう。だとすれば一体なんのために。とにかく今度帰宅した際に妻の肉球イヤリングを確認してみよう、そして今はR田が用意してくれたショーでヘマをしないように集中しようと思った。R田がマンションを出てから1時間20分ほど経った頃、R田からのメールが届いた。およそあと15分ほどでそちらに到着するという。私は急いでトイレを済ませると、リビングやダイニングに私の痕跡がないか確認し、クローゼットの中のスツールに腰かけた。携帯電話の電源を落としたことを確認し、引き戸を閉めた。やがて玄関方向から、ドアが解錠される音と男女の話声が聴こえてくる。話し声の接近はキッチンのあたりで留まり、ときどき女性の笑い声が交じる。女性にしてはやや低めの声、美〇子の笑い声に間違いない。やがて話し声は止み、浴室を使用する音が聴こえてくる。10分程して、寝室に人が近づいてくる気配がする。アダルトビデオの男優が着けるようなスカイブルーのビキニショーツ1枚のR田だ。ふたたび浴室を使用する音。R田が先にシャワーを浴び、続いて美〇子が浴びているのだろう。R田は寝室に入ってくると照明をつけた。マジックミラーの向こう側が明るくなったことで寝室の隅々まで見渡せるようになった。続いて彼はベッド下の収納から、本物と見まごう程に精巧なディルドを取り出した。根元には吸盤が付いている。そして、マジックミラーの床から80センチほどの位置にそれを固定し、なかの私に向かって親指を立てた。
しばらくするとシャワーを浴び終えた美〇子がはいってきた。今日は長い髪はひとつに束ね、体にはバスタオルを巻いていた。ふたりはベッドの横、マジックミラーの前で抱き合った。
「そのパンツ履いてくれてるんだ。」
「かなり恥ずかしいけど、どう?」
「すごく似合ってる。セクシーだし、かわいい。〇人みたいなきれいな男の子が履くと素敵なんじゃないかって思って。やっぱり素敵。」
「男の子って、りっぱなおっさんだよ。」
「そういうパンツ他にも持ってる?」
「えっ、あぁ買ったことはないよ、持ってない。」
「あっ、いま〇人、嘘ついた。お互い大人なんだから、嘘つかなくいいの。」
「はは、ばれたか。もらったことならある。」
「誰に?」
「以前、眼科領域を担当していた頃に、眼科のドクターに。クリニックの院長先生。」
「もぉー、その先生とはどういう関係だったのよぉ。」
R田は美〇子の質問には答えず、自分の口で彼女の口を塞いだ。絡み合うふたりの舌の動きが発する淫靡な音が静かな寝室に響く。美〇子はR田の背中や、均整のとれた尻に忙しく手を這わせ、しきりに身をよじっては自分の身体をすりつける。やがて体に巻かれたタオルが落ちた。ダークグリーンのブラジャーに同色のタンガ。R田のペニスは小さいビキニショーツに収まりきらなくなり、すでに亀頭は露出し、鈴口の無色透明な液体が光を反射している。それに気が付いた美〇子は床に落ちたバスタオルの上に跪き、R田の鈴口に溜まったカウパー腺液を舐めとろうとした。しかし、R田はそれを制止すると、こちら、すなわちマジックミラーである姿見を指さした。先ほどR田が取り付けたディルドに気が付いた美〇子は「ひっ。」と驚いたが、直後には笑い声をあげた。
「なにこれぇ。」
「俺のだと思って舐めてみな。撮ってあげるから。」
「えぇ、これを舐めればいいの?」
美〇子は苦笑しながらも姿見の前に跪き、ディルドを舐め始めた。マジックミラーが隔てているものの、わずか30センチ足らずの距離でディルドに奉仕する美〇子を観察することができる。愛おしい相手のペニスを扱うかの如く、優しくしごきながら、鈴口にチロチロと舌を這わせたかと思うと、今度は舌を平たく広げて裏筋を舐めあげる。スマホをもって立ったまま上からその様子を撮影するR田に向けて、時折り妖しい視線をおくることも忘れない。
「彼、すごく気持ちいいって。美〇子に入れたいっていってるよ。」
「えっ、今度は入れればいいの。」
美〇子は立ち上がり、尻をこちらに向けるとタンガを膝上まで降ろし、ディルドをすでにすっかり潤っている割れ目にあてがった。
「あふぁ。」ディルドがぬるりと抵抗なく飲み込まれていき、尻や腿の肉がガラスにぴったりと張り付く。肛門が眼前でヒクつく。吸盤の周囲が秘部から発せられる熱気で曇った。
R田はその様子もスマホで撮影していたが、我慢できなくなったのか美〇子の前に立ち、彼女の上の口を本物のペニスで塞いだ。疑似3Pに美〇子も興奮しているのか、出し入れされるディルドにまとわりつく体液は次第に量を増し、白くなった。逆に眼前で前後する美〇子の白い肉に赤みがさしていく。次にR田は美〇子をこちら向きに立たせると、ブラジャーをはずし、両手をクローゼットの戸板につかせた。
「本物が欲しいか?」
「うん。はやく。〇人のがいい。はやく入れて。あふぁ、あふぅ。」
R田は立ちバックの姿勢で挿入すると、容赦なく突き始めた。
今度は間近で美〇子の表情が観察できる。突かれる一瞬は眉間に皺がよって切なげな表情になるが、抜かれるときはだらしなく弛緩することが繰り返された。
「気持ちいいよ、美〇子ぉ。中でいってもいいかぁ。」
「生理前だから大丈夫だと思うけど、でもぉ、やっぱり・・・あっ・・あっ・・・いい。」
「いくぞぉ、あぁ。」
R田は美〇子の臀部を両脇から抑え、腰を前に突き出すと、ビクン、ビクンと律動的にふるえた。美〇子も不安と幸福をない交ぜにしたような表情で受けとめた。
「抜くところは美〇子にも見せたいから、またお尻を鏡に向けて。そう、その角度。ほら、この角度なら美〇子もみえるでしょ。」
R田に促され、ふたりは向きを変えた。私から見れば、立ちバックで合体したままのふたりを斜め左後方からみる形になる。ふたりはこちらを凝視している。いいポジションと判断したのか、R田ゆっくりとペニスを引き抜く、同時に白い液体が割れ目から流れ落ち、床にあたってボタボタと音を立てた。ふたりも、そして私もそれに注目した。
「やだぁ、たくさん。もう、ほんとに出しちゃうんだから。」
「うれしくないのか?ほんとはうれしいんだろ。」
「ばかぁ。」
手筈通りにふたりがセックスを終えて、マンションから出かけた隙に私もマンションをあとにした。次の日は勤める大学の創立記念日で休みだった。それもあり官舎には戻らず、この足で都内の自宅マンションに帰ることにした。何よりイヤリングのことが頭から離れなかったからだ。
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