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翌朝は予想していたように、朝方近くまで寝付くことができなかった。そのためなかなか起きることができず、R田が訪れる予定の時刻が迫ってきて漸く離床した。
午前10時過ぎにR田からマンションのエントランスに到着したと電話があった。家にあがって遅い朝食でもどうかと誘ったが、お休みのところ奥様に悪いからとR田は固辞した。そこでふたりで近所のファミリーレストランに出かけることにした。妻に伝えると、R田のために用意していたらしい焼き菓子を手に一緒に見送りに下りてくれた。妻は私よりも先にR田と挨拶を交わし、R田が土産にもってきた最寄りのJRの駅ナカにできた超人気店のシュークリームを嬉しそうに受け取り、我々を送り出してくれた。R田は歩きながら「相変わらず、気のまわる素敵な奥さんですよねぇ。しかも全然変わらないですね。」と遠ざかる妻に振り返って手をふりながら私に囁いた。
レストランに着くと私は軽い朝食、R田はコーヒーを頼んだ。R田はコーヒーをひとくちすすると、胸ポケットからUSBメモリを取り出し、差し出した。
「彼女、なかなかの好きものですね。昨日の記録です。どうぞ。」
「記録?どういうことだ?この前の様に録音データか?」
「いいえ、動画です。しかもフルハイビジョンですよ。」
「一昨晩の彼女ということか?」
「そうです。彼女です。まあ正確には彼女と僕の一部始終ですが。お見苦しいものも映っていますが悪しからず。」
「盗撮か?」
「まあ、今のところは。でもそのうち全部うちあけます。その頃には撮られることなんか全く厭わない、むしろ喜ぶ女になっているでしょう。」
「そんなもんか。」
「そんなもんです。」
その後、私はR田を質問攻めにしてしまった。R田によれば最近は小型カメラも大変進化しており、様々な身の回りの品を模した隠しカメラが簡単に手に入り、しかも高画質だという。今回もそんな装置のひとつで車のキーをもした小型隠しカメラを用意して記録したのだという。しかも何回かの逢瀬の後には今回の動画を本人に見せて、それをさらなるプレイに利用する予定だという。
一刻も早くR田から手渡された動画を確認したかったが、先ずはR田の手腕に関心していること、そして感謝していること、そして何かお礼がしたいと伝えた。R田は自分も楽しんでいるし、むしろ日頃、私に世話になっているお礼になればと思っているといってくれた。しかし、私も何かさせてくれと食い下がった。するとR田はしばらく考えていたが、やがて意を決したかのようにこういった。
「今回のことで先生には寝取られ癖があるとお見受けしました。もしですよ。怒らないでくださいね。もし、先生が奥様を寝取られることにですね、万が一興味があったりして、けしかける男を探すようなことがありましたら、先ずは俺にやらせてください。」と。
思わず手にしていたゆで卵を落としそうになった。そういえばR田は以前から、「自分結婚するならああいう奥さんが欲しい。」と妻のことをしきりに褒めてくれていた。
「うちのに興味あるのか?真面目な堅物で、お前の好きなあっちはからきしつまらないとおもうぞ。」
「どこのご主人もそういうらしいです。まあ万一そんなことがありましたらって話ですから。あっ、それから動画のデータの扱いにはくれぐれも気を付けてくださいね。」
動揺を隠したつもりだったが、R田は私の様子から何かを察知したのか、急に話題を転じた。
R田とはレストランで別れ、帰宅した。妻と子供達は早速R田の手土産のシュークリームをほお張りながら、「これすごく並ばないと買えないのよ。R田さんはこの時間にどうやって買ってきたのかしら。製造日は今日だし。」などと不思議がっていた。あいつならきっとなんとでもなるんだろうと思った。「R田がくれぐれも宜しくって。ママは変わらないって驚いてたぞ。」と伝えると、「R田さんも相変わらず如才ないわね。」と苦笑ともとれる笑みを浮かべた。
月曜日の早朝に家を出て出勤すればその晩は家族と一緒に過ごせたのだが、R田からのデータを早く確認したい気持ちが強く、早朝に出勤する必要が生じたことにした。そして日曜日の夕方に自宅から千葉の官舎に戻った。官舎に戻るとすぐにラップトップを開いた。R田からわたされたUSBメモリーを挿入、ファイルを開くためのパスワードを要求され、R田に教えられた通りに美〇子のフルネームをアルファベットで入力する。すると20個ほどに分割された動画ファイルが表示された。興奮のあまり、自らの拍動を感じる。イヤホンをイヤホンジャックにさそうとしたが、小刻みに手が震えてなかなかささらなかった。なんとか準備を整えて、なぜか数回の大きな深呼吸をしてから最初のファイルを再生した。
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