10
それから数日後、待ちに待ったR田からメール連絡があった。彼の予想通り、美〇子のほうからメールが来たこと、そしてDデイは4月23日、今週の金曜日と決定したとの報告であった。そして待ちきれずに自分から連絡した美〇子のメールがはりつけられてあった。
〇人、いつ誘ってくれるんですか?初めからそんな気なかったのかもしれませんけど(笑)ゴールデンウィークには主人が一時帰国します。そうなるとお誘いがあっても応じられなくなると思って、メールしてしまいました。ご迷惑だったらごめんなさい。美〇子
美〇子のR田に宛てたこのメールを読むだけで私の愚息は激しくいきり立った。今回は美〇子から休暇届が出ていないことを確認し、指折り数えて金曜日を待った。
金曜日は病棟当番である。私はこの日ばかりは早朝に出勤し、早くから病棟業務をこなした。午前9時半には医局にあがり、美〇子の出勤を待った。やがて美〇子の出勤時刻がくる。ほぼ定刻に医局のドアが開かれた。彼女は七分袖のネイビーのワンピースを着ていた。長い黒髪は後頭部の比較的高い位置で束ねられており、束ねられた黒髪はその位置から毛先にむけてまっすぐに落ちている。普段左手の薬指につけているシルバーのリングはもちろんしていない。ワンピースの裾からのぞく足はダークブラウンにみえるストッキングで覆われており、暗い色のペディキュアをしているが色までは判別できない。差し色に赤い皮ベルトの小ぶりな腕時計をしていた。白衣を羽織った美〇子は先ず、郵便物の確認を行い、各医師個人宛の郵便物を各々のデスクに配った。新聞に目を通す振りをしながら、その姿を目で追った。その日、美〇子が着ていたワンピースはあのときのプリーツの入ったスカートほど薄手ではなかったし、ナマアシでもなかった。従ってあの日のように下着の形がわかるような幸運には恵まれなかった。でもそんなことはどうでも良いと思った。後日、今晩の報告をR田から受ければ全てわかるのだ。今、この瞬間、すました顔で仕事をしながらどんな下着を着けていたかだって。
昼休みをねらって、何かの足しになればとR田にその日の美〇子のいでたちをメールで報告し、最後に今晩の詳細な報告を求むとしめた。<紺色ベースに赤の差し色ですね、助かります、女性は偶然の一致に運命を感じる生き物ですからね。今日は赤ワインの品ぞろえの良い鉄板焼きの店で飲む予定です。報告は動画でできるように準備もしていますので楽しみにしていてください。何よりも僕が楽しいです。>とすぐに返信があった。
動画で報告とはどういうことだろう。まさか初めての情事を撮影させてもらいたいと頼むのだろうか。そんなことをいきなりお願いしたら、上手くいくものもいかなくなるだろう。R田はそんな野暮なことはしないはずだ。気にはなるが、待つ他ないのだと自身を落ち着かせた。ずっと観察していたわけではないが、その日の午後の美〇子はどこか落ち着きがないようにみえた。
その週末は土曜日の当番からも外れており、当直もなかった。ひとり官舎で過ごしていても落ち着かないことはわかっていたので、仕事を終えたら自宅に帰ることにした。佐〇子と会ってもよかったのだが、なぜかその気にはなれなかった。特急電車を利用し、午後7時には都内の自宅マンションに着いた。帰ることを妻には連絡していたが、子供達のお習い事でみな出ており、出迎えてくれたのは愛犬だけだった。シャワーを浴び、冷蔵庫の缶ビールをひとくちやったところでふと考えた。ママ友付き合いや子供の教育に余念のない妻にも美〇子のような隠した一面があるのだろうか。気が付くと妻の衣装部屋と化しているクローゼットの前に居た。下着入れと思われるプラスチックケースの引き出しを引くと、几帳面に収納された色とりどりの下着。淡色系が多く、いたって普通なものばかりにみえたが、一番奥にワインレッドの小さな布袋を発見した。袋を手にとったものの、その中身を確認することに一瞬躊躇した。その次の瞬間、玄関が開けられる音に続いて、子供達の声。慌てて袋をもとに戻し、ダイニングへと戻った。
※元投稿はこちら >>