奥から孝が出て来た。
坂井は、サッと腰に回していた手を引いた。
「お待たせしました、本日のお刺身でございます」
「おっ、いいね、美味しそうだよ」
「坂井さん、なにこそこそ恵と話していたんですか?」
「へぇー、気になるんだ、心配しているんだ、口説いてなんかいないよ、愛されてるね、恵さん」
「いやだ~坂井さん!」いつものように明るく接する恵
「いやね、恵さんに、私の女房の攻略法を伝授していたんだよ、小料理屋中井を応援しようと思ってもね、女房の発言はいろいろ影響があるんだよ」
「そうなんですね」
「このビルの入居に関しても、女房はブティックを入れたかったみたいだから。だから、今日、恵さんが自宅まで来たのは大正解だと思ったよ。料理が素晴らしいのと恵さんの振る舞いが気に入ったようで、小料理屋中井を、応援するってまで言わせたんだよ。恵さんの人柄だね」
「すごいね、恵!ありがとう!」
「ふふふふ」
「だから、今後、どうするかって、相談だよ、なに心配しているんだよ、大将!あっはっは! 大将! 月に1回か2回、幕の内を恵さんに届けてもらう事はできないかな?」
「えぇ、恵さえ時間があれば…今日のようなスケジュールでしたら私達は問題ありませんよ、恵、いいよな?」
「は、はい…」
「そうか、そうか…よかったよ。あっ、そうだ。今後も小料理屋中井を紹介するよ。町内会もここでやらしてもらうよ。あっと言う間に裕福になるぞ!大将!」
「楽しみだなぁ、なぁ、恵」
「はい…」
「狭い二階なんて住んでいないで、二階を改装してテーブル席を作るんだ。アルバイトも複数名入れる。このビルの最上階の3LDKを購入する。クルマも外車を買うんだ!そんな夢を持って飲食店経営をしなさい」
「はい、勉強になります!」
「会計をお願い」
「はい、お待ち下さい」
孝が奥に移動した瞬間、坂井は恵の唇を奪った。
「うっうっうっ、うっ、ううううっ」
強引にディープキス、舌で歯茎を舐められた。クネクネしてやっと逃げた…
「恵…可愛い牝犬だよ、俺のペットだ…牝犬恵…」
奥から大きな声で
「9000円です!恵!レジ打って会計して」
「は~い」
「1万、お釣りはいらない」
「ありがとうございます!お帰りでーす!」
「恵、愛してるよ…恵は?」
小声で…
「愛しています…」
引き戸を開き、帰る時に、奥から孝が来て
「奥様にお土産です、いろいろと海鮮の珍味の詰め合わせです。今後ともよろしくとお伝えください…」
「あぁ、ありがとう!喜ぶと思うよ、じゃあな」
恵にとって、長い一日がようやく終わった…
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