おばさんとの二度目の帰省。電車の中での会話により、旦那さんとは熟年離婚をし、一人息子は結婚して家を出ているらしい。彼女はお祖母さんなのだ。
いろいろと自分のことを語ってくれる彼女に、僕は本当のことを告げていた。家出をしているという事実を。
それには彼女は素早く反応を見せる。『お母さんに連絡した?』『電話だけでもしてあげて。心配してるこら。』と母親のことばかり気にかけていた。
きっと、自分自身と重ね合わせているのだろう。彼女も一人の息子を持つ母親なのだから。
『ほんとは昨日、電話しかけたんだけど、お袋の泣く声を聞くのが怖くて、掛けられなかった。』
『うん、わかる。わかるけど、電話だけしてあげて。』
『なんて言えばいいかなぁ~?』
『改まることないよ。普通に電話して、話してあげればいい。それだけで分かるから。お母さんやもん。』
その時のおばさんは先生だった。僕がここまで彼女に話してしまったのも、どこかそういう存在に思えてしまったからなのかも知れない。
電車は地元の駅に着き、彼女はタクシーへ、僕は地下駐車場へと足を向ける。その時、『あの~、帰りは何時の電車ですか?』と聞いてしまっていました。
おばさんは、『遅いよ~?4時間後。』と言いますが立ち去りません。僕の次の言葉を待ってくれているのです。
『そうですか。じゃあ、時間があえば。』と言って別れるのでした。
家出少年です。町に出る訳にも行かず、地下に停めてある車もいつ探されるかも知れません。結局行くのは駅のホーム。そこが一番安全なのです。
いったい何本の電車を見送ったかも分かりません。乗れば帰れる電車までスルーをしてしまいました。
何度もベンチで眠り、気がつけばおばさんが乗るであろう電車の時間が迫って来ています。
辺りを見渡しても彼女の姿はなく、そろそろアナウンスもされそうな頃でした。ホームにおばさんが現れたのです。
彼女は躊躇なく、僕に近づいて来ます。『もしかして、待っててくれたの?』と聞いて来ますが、『いえ。僕もすることありました。』とウソをつきます。
帰りの電車も空席が目立ちましたが、もちろんおばさんと並んで座っています。他愛もない話しをしながら、電車は戻って行くのです。
向こうに着くと、おばさんの方から電話番号を教えて来ます。そして名前も『河原さん』だと教えられるのです。
しかし、頭の中では『SIMカードないから掛けられないのに。』と思っていまうのでした。
別れ際、彼女が言ったのは、『お母さんにちゃんと電車してあげてよ。約束よ。』と母親を心配した言葉でした。
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