電車が走り出しました。他の乗客もスマホを握ったり、雑誌をめくったり、さっさと目を閉じたりとそれぞれに過ごし始めます。
僕とおばさんと言えば、小さな声でですが、もう雑談を始めていました。そこであることを聞きます。
おばさんはよくこの電車に乗っていること。それは、一人暮らしをしている母親に会いに行っているそうです。
そして、それは僕の住んでいる隣の町。つまり、おばさんの目的地は、僕がいま向かっている地元の駅だったのです。
おかげで会話は更に盛り上がりました。退屈をしない一時間半を過ごせたのです。
駅に着き、お互いに『ありがとう。』と言って別れます。彼女はタクシーへと乗り、ぼくはここの地下駐車場へと走ります。
車は3日前と変わらぬ場所にありました。ドアを開け、頭に来て足元に投げ捨てたスマホを手に取ります。
電源を入れると、バッテリーはほとんど減ってはいません。そして、心配したみんなから着信が多く入っていると思っていたのにそれもない。
一件もないのです。しかし、その理由はすぐに分かります。スマホの画面に『SIMカードが挿入をされていません。』と表示をされているのです。
開くと、本当にカードがありません。そこで3日前をよく思い出します。スマホを投げ捨てる前、確かに僕はカードを取り出した覚えがあります。
もしものためだったのでしょう。しかし、そのカードをどこに置いたのかがわからない。
結局、探し回ったけどそれはどこにもなく、『僕はここへなにをしに来たんだろう…。』と一人嘆くのでした。
次の日。僕はまた駅のホームにいました。あることを思い出し、『最後の賭け。』とばかりにSIMカードを求めて、再び地元の駅へも戻ることにしたのです。
結果、その賭けには破れ、また無駄な時間を過ごしてしまうことになります。しかし、それは意外と無駄な時間ともならなかったのです。
ホームの階段からは、ワンピースを来た一人の女性が降りて来ました。女性は僕の顔を見つけると、『あれ?また~?』と声を掛けて来ます。
電車は出発をすると、彼女が昨日言っていた『今日少し混んでるねぇ?』の意味が分かりました。普段はそんなに乗ってはいない列車のようです。
しかし、今日もとなりにはおばさんが座っていました。また二人で会話をしながら、一時間半を過ごすのです。
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