第15話 ホテルへ
「さてと……これで僕たちの用事は済んだ事になったよ。ここからは2人だけの秘密の時間だ」
「そんな…………もう終わったのかと思ったのに…………まさか通り過ぎちゃうなんて…………」
「あれ?でも僕は”帰る“とは言わなかったよね?w 奥さんもホテルに行くつもりで車に乗ってたでしょ?w」
「それは…………」
図星でした。
まいはホテルに着くまでに、自分の心に決着をつけようと思っていましたから。
それが待ち合わせ場所、つまり別れの場所が見えた事により肩透かしをくらった格好。
せっかく頑張って決意をしていたのに……
しかしまさかの素通り。
まいの心はグチャグチャになっていました。
その混乱の末に出した答えがまいの本心であると、木崎は思っていました。
もちろん、拒否できないように、自分を受け入れるように誘導しながらでしたが……
さらに10分ほど走り、木崎とまいの乗る車はホテルが乱立するエリアへと入って行きました。
ここには木崎との2度の経験、そして初めて旦那以外の男……Dを受け入れたホテルがある場所でした。
「え~っと…………まいさん、あの男としたのってどのホテルだっけ?」
「え…………確か……アソコ…………」
まいが指差した先には確かにそのホテルがありました。
しかし本当は木崎はどのホテルかを知っていました。
じんからの報告で聞いていたからです。
「よし…………どの部屋か覚えてる??」
「いや…………さすがにどれかは…………」
「どんな部屋だったの?」
「え~と…………黒っぽい?ちょっと落ち着いた雰囲気のお部屋…………だったかなぁ…………」
平日の昼間だというのに、ホテルには何台もの車が停まっていました。
空いてる部屋を一つ一つ確認。
駐車場の奥にある部屋の内観写真。
その一つにまいが言うような黒っぽい部屋を見付けました。
すぐにバックで車を車庫に入れます。
「よし…………たぶんココじゃないかな? 違う??」
「あまりよく覚えてないから…………」
「そっか…………そりゃそうだよね。そんな余裕なんて無かっただろうし」
木崎はまたまいの手を握り締めました。
「忌まわしい思い出を上書きしてあげるよ。さ、行くよ…………あ、その前にまいさんからもじんさんに連絡しといた方が良いな…………外で待ってるから、終わったら降りて来て」
そう言うと木崎は1人車を降りました。
なかなかじんにLINEできないでいるまい。
しかし車の外で自分を待つ木崎の姿を見ると、まいは『今からお買い物して急いで帰るね~』とじんにLINEし、自分からドアを開けて車を降りました。
【勝った】
まいが本当に木崎に堕ちた瞬間でした。
ここまで木崎の策略により、気持ちの緊張と弛緩を繰り返していました。
そして緊張から弛緩へと変わる度、その弛みは一段一段深い所へと堕ちていたのです。
車を降りたまいは、急いで木崎の元に。
ここで誰かに見られてしまっては、言い訳のしようがありませんから。
木崎はまいと手を繋いでホテルのドアを開けました。
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