第13話 決意と嘘③
まいは暫くの間一言も発せずに、木崎の言葉を頭の中で繰り返していました。
今まで色んな経験をしてきたまい。
しかしその全てはじんとの経験。
普通の女が経験しないような事も沢山してきましたが、恋愛経験が豊富という訳ではありません。
こんな時どう対処すれば良いのかなんて……そんなまいには考えても答えなんか出せません。
沈黙を破るかの様に、木崎の手が助手席に座るまいの太腿に置かれました。
「まい…………」
木崎はそう言いながら、手を太腿から上へと滑らせて行きます。
「ダメッ…………」
木崎の手首を掴んでその動きを制止するまい。
「奥さん…………今日は本当にありがとう。いくらお土産を貰うだけとは言え、旦那さん抜きで私に会うのは勇気がいったでしょうに…………」
突然、木崎の口調が変わりました。
ここまで『奥さん』→『まいさん』→『まい』と呼び方を変える事で、より親密さを意識させようとしていた木崎。
その作戦は成功し、まいはほぼ木崎の手中に堕ちています。
じんを交えた2度の経験から、まいが【流されやすい性格】だというのは分かっていました。
そして今日も……
木崎の巧みな誘導に流され、まいの心は木崎の思うままにコントロールされていました。
それなのに何故?
何故また呼び名を戻したのか??
木崎は感じていました。
今日自分と会うと決めた時点で、まいとセックス出来る可能性は非常に高かった。
案の定、まいは自分の誘導で逃げ道を失い、ホテルへ連れ込まれる事にも拒否出来ないでいる。
しかしまだ不充分だ。
ここまでが思ったよりすんなりと進んでしまったからかもしれないが、もう一段深く堕とせないか?
そこで咄嗟に思い付いたのが、【もう一度妻である事を意識させる】でした。
その上で再度自分と寝る事を受け入れさせる。
下手をすればまいの心は閉ざされてしまうかもしれません。
しかし木崎には確証がありました。
ここまでの流れで、まいの心は自由に操れると。
「本当に頑張ったね……凄い勇気だと思うよ…………旦那さんの為によく頑張ったね……」
まずはまいの行動を褒める。
【旦那】というワードを加える事で、今日の行動は旦那あっての物だと意識させました。
「でも……何も無いなんて思ってたの??私と奥さんの関係は何だろう??友達?仕事仲間? 恋人? 全部違うよね? ただ旦那さんを介して知り合っただけの関係だよね。でも私は奥さんの身体を隅々まで知ってるよw 大きなおっぱい、ちょっと大きめだけど形の良いヒップ、そして意外と濡れやすいアソコもね…………」
一瞬で過去の体験を記憶から呼び覚まし、その上で自分と会っている事を意識させます。
すると木崎の手首を押さえていたまいの力が一段と強くなりました。
さっきまで8割、いや9割方【女】として木崎に接するようになっていたまい。
しかし木崎の言葉により妻である事を再度意識させられ、まいの中の貞操観念が強く戻って来たのです。
「いつか…………いつか奥さんと最後まで出来る日を待ってたんだ。そんな時に…………願ってもないチャンスだと思ったよw 旦那さん抜きで2人だけで会える。そう思ったら年甲斐もなくドキドキしちゃってさw」
また徐々に核心へ。
今日会ってからの事をまいの頭の中で反芻させて行きます。
「奥さんだってドキドキしたでしょう? まぁ、私とは違う意味のドキドキかもしれないけどねw 私のは【期待】だけど奥さんのは【不安】なのかな?少しでも期待が混じってたら嬉しいんだけどねw」
まいは今日木崎と会うまでの事を思い返していました。
【主人が喜んでくれるのが私も嬉しい】
そういう心理からの行動でしたが、改めて考えてみると、いくら旦那の為だとはいえ、自分の身体を狙う男と2人きりで会うなんて、普段の自分では考えられません。
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