第12話 決意と嘘②
いくら自分の中の願望を晒してしまった、沼に嵌まってしまったといっても、まいはまだ抵抗を試みました。
「で、でも……あの人に何て言えば……」
「それを悦ぶのが旦那さんの性癖なんじゃん(笑) それに、もうまいさんは私とキスしちゃったよね?w それもディープなヤツをwww」
「そ、それは…………いきなりだったから…………」
「いきなりキスされて、何分もディープキスしちゃったの? それがどういう意味か分かるかい?少なくともあの瞬間、まいさんは私を受け入れてくれたんだよ?」
まいは何も言えませんでした。
確かにあの時、逃げようと思えばいくらでも方法はあった。
木崎の唇を噛んでやっても良かった。
でもそれをしなかった。
逃げられなかったのではなく、逃げなくても良いと思っていた事に気付かされました。
「どうしても旦那さんに悪いと思うなら、今から聞いてみるかい? まいさんにそれは出来ないでしょう? それなら、今日の事は2人だけの秘密にしておこう。別に後からでも正直に言ったら旦那さんは許してくれるよ。でもね、まいさんが旦那さんに言われて私とセックスする訳じゃない? 自分で決めて……納得して私とセックスするんだよ? それを旦那さんが知っちゃうとどうなると思う?」
まいは木崎の言葉の意味を深く考えました。
今日はあくまでもお土産を貰うお礼にお茶に付き合うだけの予定だった。
それが蓋を開けてみれば、木崎のキスを受け入れ、軽い愛撫にすら反応してしまった。
そしてこのまま抱かれてしまう事さえも断固拒否とは言えずに居る……
もしじんがその事を知ってしまっても、嬉々として悦んではくれるだろう。
しかし、その後どうなるのか??
まいに他の男とセックスするのに抵抗が無くなったと見るや、次から次へと相手を用意するかもしれない。
いくらなんでもそれはイヤだ。
「…………もっと暴走すると思います……」
端的に発した短い言葉が、全てを表していました。
「だよね?それなら今日の事は絶対に2人の秘密にしよう。…………別に私、いや俺はバレたって構わない。今後まいに会えなくなるのは淋しいけど、たった一度でもまいと本気で愛し合えたら……そして前の辛い記憶を、俺の手で少しでも上書き出来たらそれで満足だしね…………」
木崎のこの言葉は半分本気で半分は嘘。
別にじんにバレたからといって、関係が終わるなんてこれっぽっちも思ってはいませんでした。
しかし『一度だけでも』と強調する事で、自分の本気度をまいに示したのです。
それはじんから聞いた、まいのこれまでの男性経験から付いた嘘でした。
まいはじんの前に1人とだけ交際していました。
しかし交際とは名ばかり。
ただ付き合ってと告白されてOKしたものの、デートも無く一緒に下校した事も1度だけ。
そして自然消滅。
それからじんと交際する事になりましたが、今までに男から軽い誘いは有っても、じんの様に自分を強く欲してくれた人は居ません。
木崎にしろD氏にしろ、じんが連れてきただけの男。
需要と供給が一致しただけで、自分の事を純粋に求めてくれた訳ではないと感じていました。
しかし…………今木崎はストレートに自分を欲してくれています。
需要と供給から始まった関係のはずなのに…………
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