「おはようございます」事務所に着くと先に出社している男性社員に挨拶を済ませ自分の席に着く。
机の一番下の引き出しを開けるとクッキーやお煎餅などのおやつが詰め込まれている。
そこにバッグを押し込むと机の上に乱雑に置かれた伝票に目をやった。
請求書、領収書、見積書・・・様々な書類が積み上げられている。
「はぁ、また今日も・・・ちょっとは分けて置いてくれてもいいよね」思わずポツリと呟く。
その声を聞いた隣の男性社員飯田28才が夏希に声をかけた。
「いつもすみません、みんながさつで。一ノ瀬さんが仕事しやすいようにもうちょっと気を付けてくれたらいいんですけど・・・」
自分がやった事でもないのに申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「あっ、聞かれちゃった?いいのいいの、飯田くんはいつもちゃんとしてくれてるから」
夏希は一回り近く下の飯田を弟のように思っていた。
「あっ、そうだ。もうすぐ恒例のバーベキューですよ。今年は海だって言ってましたけど。一ノ瀬さんは何人で参加します?」
飯田は楽しそうに夏希に問いかけた。
「んー、うちは私一人かな。去年から子供も来なくなっちゃったしね。もう私と遊ぶより子供同士で遊んでた方が楽しいみたいで」
伝票を整理しながら夏希は答えた。
「そっか、去年来なかったですもんね。ご主人は?連れてきても大丈夫ですよ?」
「いやー、うちの旦那はね・・・私になんて興味無いから」
夏希の表情がほんの一瞬曇った。
「じゃあ弾けちゃいましょ!一ノ瀬さん、泳ぎましょうよ!水着!持ってきて下さいね!ビキニですよビキニ!」
飯田は夏希の涼しげな横顔と突き出した大きな胸を交互に見ながら興奮して捲し立てた。
「えーこの歳でビキニ?ヤバイでしょ。かえって怒られるわ」
笑いながらはぐらかそうとする夏希。
「いやいや、似合わない訳無いですよ。それに言ってましたよね?たしか。学生時代に水泳部だったって」
「あれ?その話しちゃったっけ?失敗したな~」
以前会話の流れでほんの少し話した事を覚えていてくれたことに少し嬉しくなった。
「じゃあ着ちゃう?って言うかまず買わなきゃ。みんなには内緒にしといてよ?」
恥ずかしさで飯田の顔を見られず伝票を整理しながら小さな声で答えた。
【あ~あ、変な流れになっちゃったな。ビキニか・・・もう10年以上着てないよね、まだ大丈夫かな?とりあえず後で見に行こうか】
机に向かいながら砂浜でビキニを着ている自分の姿を想像し口元に笑みを浮かべる夏希の横顔を隣の席で飯田が眺めていた。
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