その日のおじさんは御機嫌でした。長期の出張が間近に迫っていたのですが、もう完全に吹っ切れているのか、お酒も進んでいます。
おじさんの会話も弾け、それを僕と香緒里さんが笑顔で聞いているのです。しかし、その二人の笑顔は作られたものでした。
お客の晩酌のため、彼女はこの日も僕の隣に座っていました。目の前に座るおじさんのお酒は進むのに、僕の方は付き合い程度。
進むはずなどありません。かなり前から、隣に座る香緒里さんの手を握り締めているのですから。しばらくすると、彼女の両手が僕の手を包み込みます。
もうその手を離すことなど、する気もありません。
いつものように、先におじさんが部屋へと向かいます。これがお開きの合図。僕も立ち上がり、残った彼女に『ありがとうございました。』と伝えます。
そのまま玄関へと向かうと、見送るために彼女も着いて来てくれます。靴を履き終えると、『ごちそうさまでした。』とお礼を言うのです。
いつもならば、ここで背を向ける僕。しかし、この日は違いました。彼女と手を握りあっていたことで、まだ何かが満足をしていないのです。
その瞬間、香緒里さんの両手を取っていました。引くと、一段高い位置から彼女の身体が降りて来ます。そして、背の低くなった彼女を抱き締めるのです。
『ちょっ…。』、慌てた香緒里さんは一瞬声を出しかけますが、すぐに飲み込みました。部屋に向かった旦那さんを気にしてのことです。
ジタバタすることも出来ない彼女の身体を、僕は更に引き寄せました。僕の胸に押さえつけられた両手で、彼女は離れようとしますが、僕が離しません。
いつしか、僕の頬は彼女の頬に触れ、唇は彼女の唇を探します。しかし、彼女に拒まれました。人妻として、それ以上は許さなかったのです。
数日後。『マキおくんよぉ~。何かあったら、うちのやつ助けてやってくれのぉ~。』とおじさんが僕に言って来ます。
タクシーへと乗り込むおじさんを、僕と香緒里さんが見送るのです。タクシーが見えなくなり、二人は振っていた手を降ろします。
彼女は、『ありがとうねぇ。』と見送りをしてくれた僕にお礼を言って来ました。少し照れくさそうに、『いえいえ。』と言って、僕は自分の家へと戻ります。この日、ついにおじさんは海外への長期出張へと出掛けたのでした。
そして、家へと戻った僕は、香緒里さんにLINEを送っています。そこで、こんなやり取りをしているのです。
『飲みませんか?』
『今日?準備しようか?』
『いいですか?7時でどうですか?』
『OKです。7時に待ってます。』
抱きしめたことで、断られると思っていました。しかし、その様子もなく、快い返事に僕の気持ちは段々と固まり始めるのです。
『もう犯るしかない。チャンスがあれば、もう無理矢理にでも行くしかない。』、その気持ちは、本当に実行をされてしまうのです。
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