すべて決着が着いた。
思えば8年という長い時が過ぎていた。
タカシももう40の大台を迎える年になっている。
滝沢とその取り巻きは横領と贈収賄の罪に問われて、会社を去ることになる。
タカシはメルボルンの支局で実績を収め、力を蓄えた。
現地で採用した優秀なアシスタントが、タカシのまさに手となり足となり尽くしてくれた。
秘かに本社の信用のおける仲間を増やしていき、反滝沢派を集結していった。
次期社長を狙う滝沢は重役になっていたが、タカシはまだ次長にしか過ぎない。
けれども滝沢の普段からの行状を快く思っていない敵が社内には数多くいた。
そしてその中には重職を任されている者も。
タカシは集結された仲間を使い徹底的に滝沢を調べあげた。
案の定、滝沢は私利私欲のために、会社に対する数多い背任行為をおこなっていた。
滝沢は権力をかさにきて会社を食いものにしていた。
このままにして置いたら、会社はいずれ崩壊するのは明らかだった。
そして証拠を揃え雌伏のときを終え、反滝沢派と念密な根回しの上、いきなり重役会議に乗り込んだのだ。
勝負は呆気なく着いていた。
滝沢派にとっては寝耳に水のことで、まさかこんなことが秘密裏に進められているとは夢にも思っていなかったようだ。
滝沢の数限りのない悪行が白日の下にさらされ、社長派が激怒した。
その場で緊急動議が発動され、滝沢は解雇となった。
後は法に委ねられることになるが、ヤツはもう終わりだ。
すべてが決着した。
確かに積年の恨みを晴らした達成感はあったが、それだけだった。
なぜかニガイ思いがこみ上げてくる。
社長から重役へと話を持ちかけられたが、丁重に断った。
明日メルボルンに戻りますと伝えた。
そもそも出世のためにしたことではなかった。
泊まっているホテルの部屋のチャイムが鳴った。
ずっと同行していたアシスタントだった。
「お疲れ様でした、、、終わりましたね、、、」
「ああ、君のおかげだよ、、、倉木君がいなかったら、こんなに上手くいったかどうか、、、本当にありがとう、、、、でも君にとっては複雑な気持ちもあったんじゃないのか?」
「全然、、、いい気味だと思いました、、、あんな男、、、」
それは本当のことなのだろうか?
一度は好きになった男なのだ。
「そうか、、、でもこれで君も自由だ、、、約束だったな、、、、このまま君は日本に残ってもいい、、、」
アシスタントの表情が曇る。
哀しげに俯いていた。
「、、、イヤッ、、、イヤです、、、」
黒いビジネススーツに身を包んだスキの無い姿は、以前の彼女からは想像もつかない。
アシスタントになってからは、そのスーツの下の隠しきれない魅力的な躰を自分のものにしたことはなかった。
でも今はもう、押し殺してきた自分の気持ちを抑えることが出来なかった。
「服を脱げ、、、」
ハッとした表情で女はタカシを見た。
「イヤなら従わなくていい、、、ナツナが拒んでも、俺は咎めたりしない、、、」
黙ってナツナはまとめていた髪を解いた。
メガネを外し、服を脱いでいく。
現地で雇ったアシスタントはナツナだった。
支局がスタッフを募集していた最終選考にナツナが残っていた。
ナツナはタカシ以上に英語が得意だし、すべての項目でトップの成績を叩きだしていた。
最終決定はタカシがすることになった。
タカシは賭に出た。
タカシの本当の目的を面談中に打ち明けた。
滝沢を潰すと、会社から追い出すと。
ナツナが滝沢のスパイだということも考えられた。
でもそれは無いと確信していた。
ヤツは俺がそんな大それたことを考えていることなど、思ってもいない。
それにナツナはヤツを追い詰める武器になる、そんな予感がした。
ナツナは瞳を輝かせ、協力すると言った。
そのためなら、いやタカシの為なら何でもすると約束した。
タカシはナツナを採用した。
自分の直属のアシスタントとして。
ナツナはそれに伴い、自分を変えていった。
黒縁のメガネをかけ、髪を後ろにひとつに束ね、ほとんど化粧をしなくなった。
躰のラインが出る服装は避け、いかにも仕事一筋に生きる女へと変貌していった。
タカシはナツナに条件をつけた。
お互いのプライバシーには干渉しない。
絶対に二人は男女の関係を持たない。
もちろん他に恋人を持つことは仕事に支障がない限りは自由。
仕事上のことはどんなことでも共有し、指示がない限り、決して他には漏らさない。
何年かかるか分からないが、滝沢を失脚させるまではどんなことがあろうとも部下であり続けること。
ただし成功したあかつきには、その後のことはナツナの意志に任せる。
ナツナはすべてを了承した。
部下にして分かったが、ナツナは思っていた以上に優秀な女だった。
タカシの支局での功績は彼女の力に担うところが大きかった。
今回の滝沢追放の件にしても、ナツナのサジェストが突破口になった。
ナツナはヤツの金遣いに不審な点を感じていた。
それが横領へとつながっていったのだから。
つづく
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