タカシは一人空港にいた。
いよいよメルボルンへ向け出発する。
見送りはすべて辞退した。
一人晴れやかな気分で日本を離れたい。
そんな気持ちだった。
ゲートに並ぶとき声をかけられた。
驚くことに元妻のタカコだった。
「どうして?」
「友達を見送りに来ていたの、、、」
本当なのだろうか?
しかし、久しぶりに見るタカコは相も変わらず美しかった。
タカコは両腕を回し、ハグをしてきた。
「ごめんね、、、でも信じてくれないだろうけれど、、、わたしが1番愛しているのはタカシなんだよ、、、、だから、どうしても辛くてガマンが出来なくなったら、わたしに連絡して、、、お願い、、、」
そう耳元で囁くようにして言うとタカコは一人去っていった。
機内の客もまばらの中、飛行機は飛び立った。
タカコは強いな、、、俺よりもずっと、、、
冷え切った心が少しだけ温かくなる。
ナツナもそうなんだろうな、、、心で思う。
二人はもう二度と会うことも無い、そう思っていた。
一時間が過ぎた頃、空いていた隣の座席に女が座った。
タカシの好きだった香りが漂ってくる。
女は黙ったまま躰を震わせていた。
「どうして、、、ここにいるんだ?」
たまりかねたタカシが声をかけてしまう。
女はナツナだった。
「本当にゴメンなさい、、、わたし、、どうしてもタカシに直接謝りたかったの、、、」
ナツナの声も震えていた。
「わたし、会社を辞めたの、、、、あの人とも、、、あれから一度も逢っていません、、、」
沈黙が流れた。
「タカシを愛しているの、、、誰よりも1番、、、」
「そんな言葉、、、信じると思っているのか?俺はあの露天風呂でお前たちがシテいたことを全部見ていたんだぞ、、、、この浮気女、、、」
「えっ、、、」
ナツナは慌てたようにタカシを見た。
ナツナが見たことの無い冷たい瞳をしていた。
つづく
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