タカシは翌日、ナツナを駅まで車で送った。
そして予定通り、そのまま地方のクライアントに向かう。
休日だというのに、また滝沢のムチャブリだ。
何も今日じゃなくてもいい仕事ではないか。
そう思いながらも従わざるを得ない。
滝沢の気まぐれとしか考えられない用件を済ませ、報告を入れた。
タカシは温泉宿に到着し、チェックインをした。
すべて部長の指示だった。
名前を告げると部屋へ案内される。
部屋はかなり広く、露天風呂までついている。
ネットで調べると知る人ぞ知る秘境の宿らしい。
最上位にランクされ、一日10組しか宿泊出来
ないセレブ御用達の温泉宿だ。
タカシ風情には一生縁の無さそうな宿だった。
時間は8時を過ぎていたが豪勢な食事が用意された。
部長が手配したのであろう。
部長に連絡したとき、この宿に泊まるよう命令された。
タカシの名前で予約は取ってあり、支払いは済ませてあると。
部長は外せない用事があり、終わり次第連絡をする。
遅くなるかも知れないが、それまで一人で部屋に待機しろという指示だった。
誰にも聞かれたくない、大切な仕事の打ち合わせをしたいと告げられていた。
正直、家に帰ってゆっくり過ごしたかったが滝沢には逆らえない。
それにどうせナツナは旅行で逢えない。
滝沢と会うのは気が進まないが、これも仕事で仕方が無いことだ。
しょうがない、豪華な食事と部屋の露天風呂で鋭気を養うか、、、
そう独りごちをして、部長の連絡を待つことにした。
ゆったりどうせ湯に浸かったせいか、うとう
としてしまう。
そんなとき部長から連絡が入った。
30分後に1階にある大浴場の露天風呂へくるように告げられると電話はすぐに切られていた。
相変わらず勝手な男だ。
時間はもう11時を過ぎている。
どうやら浴場の露天風呂はいつでも入って構わないらしい。
しかも混浴だ。
それなのに、あんなヤツと、、、
気は進まないが仕事だと割り切って、男性の脱衣所で浴衣を脱ぐ。
他に一人だけ中にいるらしく、かごに浴衣がある。
きっと部長だな。
そう思い無人の洗い場の外にある露天風呂へと向かう。
外ににでると、岩に縁取られた露天風呂はあったが誰も見当たらない。
湯槽に浸かり辺りを見回す。
人影は無いが声がしたような気がする。
そうか奥にまだ露天風呂があるのか、、、
暗い足元に注意してゆっくりと移動する。
大きな岩が壁のように遮る奥にもうひとつの露天風呂があった。
周りは真っ暗だが、ところどころにスポットライトが当たっている。
そのひとつが一組の男女を浮かび上がらせていた。
滝沢と、、、友人と旅行しているはずのナツナだった、、、
つづく
※元投稿はこちら >>