そのうち、一人がナツナだということに気がついた。
ナツナも気付いたようで視線が合う。
タカシは軽く手を振り黙礼したあと、再び一人で飲み始めた。
しばらくすると、隣の席に誰かが座った。
女性らしい香水の香りとアルコールの混じりあった匂いがした。
「一人ですか?」
「ああ、そうだよ、、、」
ナツナだった。
「タカシさん、、、冷たいんじゃないですか?」
ナツナは酔っているらしく、頬を染めていた。
「いや、、、ほら、女の子同士で楽しそうにしてたから、悪いと思ってさ、、、」
「違いますよ、そうじゃなくて、、、あれから一度も誘ってくれないし、、、わたし、ずっと待ってたんですよ、、、」
確かに会社で何度か軽く話はしたが、それだけだった。
正直、誘いたい気持ちはあったが何となく気が引けていた。
そのありのままの気持ちをナツナに伝える。
「本当ですか?言い訳じゃないですか?」
そのとき他の二人もやって来た。
「今晩わ、、、あの、水島さんですよね?」
「やっぱり水島さんだ、、、倉木さん、紹介して下さいよ、、」
二人はナツナの後輩だった。
部署の違うタカシに見覚えはない。
「ごめん、、俺、知らなかった、、、でも、どうして俺のこと知ってるの?」
「だって、、、ねえ、、、」
「うん、、、バツイチだけど、背が高くてカッコいいし、仕事も凄く出来て、無口だけど優しいって、、みんな言ってますよ、、、」
「コラ、、、」
ナツナが二人をたしなめる。
「ゴメンなさい、、、でも人気があるのは本当ですよ、、、」
二人は顔を見合わせ頷き合った。
「それ、バツイチ以外は全部外れているから、信じない方がいいよ、、、」
「またまた、、、ねえ、水島さん、一緒に飲みましょうよ、、、」
「いや、、、それは、、、」
「そうよ、、、今日は水島さんの邪魔はしないで、今度にしましょう。」
ナツナがうまく取りなしてくれた。
さすがに女の子三人と話すとなると、辛いものを感じる。
それに今はそんな気分には全くなれない。
女の子たちはナツナと渋々席に戻って行った。
タカシは店員を呼び、ナツナたちの会計を済ませ、もう一杯だけ飲み干すと店を出た。
駅へと向かっていると、後ろから駆けてくる足音が聞こえた。
「タカシさん、、、待って、、、」
立ち止まり、ナツナを待つ。
「もう、、、タカシさん、、、二人きりになろうと思っていたのに、、先に行っちゃうんだもん、、、」
息を切らせてナツナがそう言った。
「ゴメン、、、でも、、どうして?」
「だってぇ、、、あっ、それより、、、すいません、、会計までしてもらって、、、」
「いいんだよ、、俺が勝手にしたことだから、、、」
「本当に気を遣わせて、ゴメンなさい、、、それで、、、よかったら、これから二人で飲みませんか?今度はわたしに奢らせて下さい。」
「えっ、いいのかい?」
「明日休みだし、タカシさんとならもっと飲みたい気分なんです。」
「よし、そうしようか?でもナツナちゃんの奢りはナシ、、割り勘で、、、」
「そんな、、、」
「ナツナちゃんの奢りは、俺、気が引けるんだ、、、」
「わかりました、、、じゃあ割り勘で、、、」
明るいナツナの笑顔が心を癒してくれる。
本当は次も奢るつもりでいたが、それではナツナの気が引けるだろうと思い直した。
ナツナもタカシの気持ちをくみ取ってくれたようだ。
つづく
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