サトルは昼すぎに帰って来た。
気づかないうちにうとうとしていたアズサの目の前に書類を広げた。
離婚届だった。
サトルの署名はすでにされている。
わかっていたことなのに頭の中が真っ白になる。
「サインしてくれ、、、俺は家を出る、、、」
「どうして、、、わたしを抱いてくれたじゃない、、、」
「あれは間違いだった、、、アズサだってただするだけと言ってただろう、、、やっぱりこんな状態を続けたらダメだ、、、、だから俺が家を出る、、、」
やっぱり女ができたんだ。
昨夜も女と、、、それはアヤなのか、、、
「イヤよ、、、イヤだ、、、」
いきなり服を脱ぎ捨てる。
躰でサトルを取り戻す。
それしか頭になかった。
アヤなんかに負けない。
「アズサ、、、何をしてる、やめるんだ、、、あっ!」
サトルが目を剥いていた。
「それ、、、キスマーク、、、」
躰中につけられたその痕跡。
動転して失念していたことに気づく。
「イヤー!」
両腕で必死に隠そうとする。
「お前、、、やったのか?」
「ちがう、、、ごめん、、、なさい、、、」
「謝る必要は無い、、、良かったじゃないか、新しい男できて、、、」
無意識のうちに皮肉がこもる。
この女は、、、
反省なんかしていなかったんだな、、、
「ちがう、、、ちがうんだよ、サトル、、、」
「もういいよ、、、これ以上、話すことは無い、、、サトルしてくれ、、、」
もう言い訳する気力も無い。
全てを話せば最悪の終わりが来るだけだ。
操り人形のように、何の意思も無くサインをしていた。
サトルが荷物をまとめて家を出た。
アズサは一言も言葉を口にすること無くサトルを見送った。
こんな大切なときに、下品でただれたセックスに溺れ狂った自分。
もう一人の自分が、あんたみたいな見境のない女はこうなるのが当たり前だと罵ってくる。
一人きりになった玄関で力無くしゃがみ込む。
嗚咽がこみ上げてきて、両手で顔を覆う。
ようやく涙が溢れてくる。
人は失って初めて本当に大切なモノに気づくことをアズサは知った。
つづく
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