翌日の昼過ぎ、アイナから連絡があった。
電話しちゃったと彼女は言った。
今日も逢いたいという彼女の誘いに歓んで応じる。
まるであの頃に戻った気分でいるのは自分だけだろうか?
淡い期待を抱きながら仕事を終え、待ち合わせの場所へと急いだ。
二人で食事をとり、軽くアルコールを口にする。
アイナは夫と別れる決心がついたと言った。
夫にはアズサ以外にも女が何人もいることがわかった。
元々、家のことには無関心で子供の面倒すらみようとしない。
自分のことしか考えていない夫だったと、アズサは表情も変えずに淡々と口にした。
わかった、もうこの話はやめにしよう、、、
もうすぐお互い独り身だなと熱い視線で見つめると、そうだねといたずらっ子のような笑顔で見つめ返してくれた。
それからは昔話に花を咲かせた。
話しているうちにいろんなことを思い出して、まるであの頃に戻ったように話が弾む。
食事を終えてサトルはある場所へとアイナを誘った。
タクシーで向かう。
初めて二人が会った思い出の公園。
二人でその場所に立っていた。
言葉を交わさず公園を歩いた。
手をつなぐと、アイナが強く握り返してくれた。
「あの日に帰りたい、、、」
「俺もだよ、、、、でもこれからも俺はアイナの力になりたい、、、アイナのためなら何でもする、、、何でも言ってくれ、、、」
「そんなこと言われたら、わたし本気にしちゃうよ?」
「二言は無い、、、何でも言ってくれた方が俺は嬉しい、、、」
アイナはサトルの胸の中に躰を預けて来た。
「わたし、、、お兄ちゃんとあそこに入りたい、、、」
見ることが出来ずに指差した先には、あの時には無かったホテルが建っていた。
「えっ、、、、いいの、、かい?、、、遅くなっても、、、お子さんは大丈夫?」
声はうわずり、胸がドキドキして破裂しそうだ。
きっとアイナもそうだと思う。
「大丈夫、両親が見ていてくれるから、、、、うちの親、あの人が嫌いだったから、今度のこと歓んでくれているの、、、わたし、サトルさんに、初恋の人に逢ってくると言ったら、母さんがゆっくりしておいでって、、、わたしに気を使ってくれてるの、、、わたしサトルさんのこと、たくさん母に話していたから、、、、母さんたら、泊まってきてもいいって、、、」
顔をまっ赤にして小さな声でそう言った。
「後悔はさせないよ、、、アイナもお子さんも俺が絶対に幸せにする、、、」
嬉しそうに頷くアイナとホテルへと向かう。
部屋へ入り、アイナを見つめる。
「やっぱり、こんなにキレイになったんだな、、、」
アイナの黒髪を優しく撫でつけ、頬に触れる。
「本当にそう思ってる?」
「ああ、、、あの時、いつも思ってた、、、アイナはすごい美人になるって、、、、絶対に他のヤツに渡したくないって、、、思ってた、、、」
「ゴメンなさい、、、、でも、すごく嬉しい、、、、わたしもそうだったんだよ、、、お兄ちゃんを誰にも取られたくなかった、、、、お兄ちゃんと仲良くしているのを見て、友達が何人もお兄ちゃんを紹介して欲しいって、、、わたし、イヤだって言ったの、、、、お兄ちゃんはわたしだけのものだって、、、」
サトルはアイナを抱き寄せた。
「俺、思っていたんだ、、、アイナが中学生になったら告白しようって、、、そしていつかプロポーズをして、結婚出来ると勝手に思い込んでた、、、」
「わたしも、、、同じこと考えてた、、、」
「アイナがいなくなって、俺まだ子供だったけど、、、すごく辛かった、、、」
「わたしもだよ、、、わたし、すごく泣いた、、、あんなに泣いたこと、今までも一度もないくらい、、、、お母さんがすごく心配して、、、わたしお兄ちゃんのこと全部、お母さんに話したの、、、、お兄ちゃんがいつも優しくしてくれて、どんなときも助けてくれて、大切にしてくれたって、、、、お母さんも一緒に泣いてくれた、、、わたし、今でもお兄ちゃんが好き、、、」
濡れた瞳で一途にアイナが見つめてくる。
「俺もアイナが好きだよ、、、」
あの時のアイナがもっと美しくなって目の前にいる。
あの頃からずっと欲しかった唇を指先で触れる。
「アッ、、、そんなことされたら、、キスしたくなっちゃう、、、」
唇を重ねる。
優しく想いを込めて、、、
アイナがサトルの胸にすがりついてきた。
「わたし、あの時、サトルさんが告白してくれるの待ってたんだよ、、、告白されたら、、バージンを捧げようって、ずっと思ってた、、、」
「アイナ、、、」
再び唇を重ね合う。
舌が絡まり合い、お互いを求め合う。
もしあの時、アイナが引っ越していかなければ、間違い無く、二人は結ばれていた。
その想いが二人を更に引き寄せ合う。
今、二人の関係を阻もうとするものはもう何もない。
つづく
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