夫の帰りは11時を過ぎていた。
珍しく酒に酔っているようだった。
サトルはアズサがまだ家にいることに、さほど驚きをみせなかった。
きっとアヤがサトルに話をしてくれたんだろうと思い当たる。
アヤの友情がすごく有り難かった。
夫の態度は相変わらずつれないが、朝に比べればましになっている気がする。
アズサはおそるおそるサトルに語りかけた。
「あなた、お願いです、、、わたし、これから新しい仕事と部屋を探します、、、それまでここに居させて欲しいんです、、、」
アズサは頭を下げて懇願した。
「分かった、、、実家には帰らないのか?」
実家には絶対に帰れない。
家族はみんなサトルのことをすごく気に入っている。
自分の浮気が原因で別れることを知られたら、それこそ大変な騒ぎになってしまう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「ごめんなさい、、、実家にはまだ知られたくないんです、、、家族に知らせるのは落ち着いてからにしたいんです、、、すいません、、、」
「そうか、、、、実は今日、アヤちゃんと逢ってきた、、、話は聞いたよ、、、、でも俺の気持ちは変わらない、、、」
それでもアヤの友情が嬉しかった。
おかげでまだしばらくはサトルと一緒にいることが出来る。
無駄に終わるかも知れないが、懸命に努力しようとアズサは心に決めていた。
同居を続けるにあたって、決め事を夫に言い渡された。
お互いのことには干渉しない。
自分のことは自分でする。
もう夫婦ではないから、馴れ馴れしくしない。
もちろん寝室は別にする。
そしてアズサの仕事が決まり次第、離婚届けを提出する。
これは新たな仕事を探すにあたって、離婚したばかりというのは、いろんなデメリットがあると考えたからだった。
それにアズサにしてみれば、出来るだけ先送りにするに越したことはないからだ。
新たな生活が始まった。
決め事通り、夫は何もかも自分のことは自分でやってしまう。
それがアズサにはやっぱり寂しかった。
ほとんど会話もない。
あったとしても夫は短い返事を返すだけだ。
むなしい日々が続いた。
中々希望にそった仕事が見つからず、この日も面接で帰りが遅くなってしまった。
家に帰ると玄関にアヤの靴があることに気づいた。
今の夫婦の雰囲気を伝えていたから、きっとアヤが気を遣って訪ねてくれたんだろう。
そう思っていると、リビングから二人の楽しげに話す声が漏れ聞こえてきた。
夫のこんな声をしばらく聞いたことがない。
気後れして中に入ることが出来なかった。
アズサの帰宅をまだ気づいていない二人の会話に思わず聞き耳を立ててしまう。
つづく
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