今朝も 俺が起きると すぐに父は会社に向かった。
母は母で ご飯をたべながら『何でもかんでも ねだったりするんじゃないよ』と、叔母と出掛けるのを知って いつもより増えた小言を残して 仕事に向かった。
『どうしよ?、何処 行こうか?』
向かい合わせで ゴメンを食べながら 叔母が続けた。
『洋服でも見て、美味しいモノでも食べて‥、銀座でも出てみる?』
『どぅお?、ケンちゃん?』
「‥うん」
『気の無い返事ね』
『ま、いいか、そうしよ、ね?』
叔母は 食べ終えるとすぐに 洗濯機を回した。
そして、その間に洗い物を済ませて 何処かに電話をかけた。
きっと 叔父さんのトコだろう。
時々、強く荒い口調が聞こえた。
今日は土曜日、きっと叔父は休みなのだろう。
ウチはと言えば、母は俺に持たせる車の為に、父は自分の家を持つ為に、2人とも週6で働いていた。
やがて、洗濯物を干し終えて 2人で出掛けた。
『‥にしても 背 高いのね?』
『何cm?』
電車内で つり革ではなく その上の横にはしるポールに捕まる俺を見て 叔母が聞いてきた。
「‥181」
『部活は?、して無かったのよね?』
『誘われたでしょ?』
「バレーに バスケに‥」
『ふふ、お決まりね?』
「柔道部なんてのも来た‥」
「でも俺 トロいからさ、期待に応えらんない自信 有ったからさ‥」
「断った、全部」
『ハハハ、何? その自信』
『可笑しいい』
この叔母の住む町は 日本一賑わうサービスエリアで有名な街のとなり町。
横浜で ほぼほぼ 事足りてしまう為 都内まで出る事は そんなに無いのだそうだ。
俺は、叔母とは反対側の関東。
やれ原宿だ何だと、女子は まめに出るらしいが、俺も滅多に都内まで出る事は無かった。
そんな話しをしながら 電車を乗り継ぎ 有楽町で降りて銀座を目指した。
『ねぇねぇケンちゃん?』
『どう見えてるんだろうね、私たち』
『親子かな?』
『やっぱり 恋人どうしには見えないのかなぁ?、なら こうしちゃえ!』
叔母が 突然 腕を組んできた。
「ちょっ、叔母さん‥」
『ダメ?、イヤなの?』
「イヤじゃないけど‥」
『何ぁに?、初めて?』
『そんな事ないよね?』
「初めてでもないけど‥」
『なら問題ないじゃない?』
叔母は 更に 俺の腕に その腕を巻き付けてきた。
背の低い叔母。
それは 母かたの家系らしい、母も152と背が低いが、叔母は それよりも低い、150無いかも知れない。
『これ良いわねぇ』
『あっ、こっちも良い!』
『ねぇケンちゃん、どぅお?』
叔母は そう言いながら ウインドウに飾られた洋服やバッグをみながら 先に先にと歩いてゆく。
俺は頭を掻きながら あとに続いた。
『お腹 すいたね』
ふと 叔母が振り返った。
『何 食べたい?、何でも良いわよ』
「何でも良いって 銀座だよ ここ」
『こらッ、子供がそんな心配しなくて良いの!』
『銀座だ銀座だって言ったって 少し路地に入れば そこまで高くないわ』
『何 食べたい?』
叔母は 通りから 一本 路地に入った。
『お寿司 天婦羅 お肉』
『何でも良いわよ、何にする』
結局、《ランチ、◎◎◎◎円》と メッセージボードの有った 焼き肉店に入った。
『銀ブラ なんて久しぶり』
「銀ブラ?」
『そ、宛もなく 銀座をブラブラ歩く事を そう言うの、知らない?』
「うん、知らなかった」
が、流石に銀座 当然と言えば当然だが たまに家で食べるソレとは 大違いだったのを覚えている。
それからは、やれ進学はするのか しないのか?。
何か やりたい事は有るのか。
彼女は いるのか いないのか?。
と、家に帰るまで 質問攻めのデートだった。
今夜も 昨夜同様 母に小言を言われながら、ご飯を食べ 風呂に入って 布団を敷いて、テレビをつけて椅子に座った。
これまた同様に テレビの内容は 何ら入ってこない。
そしてそして またまた同様に 叔母がパジャマと着替えを持って 風呂に行った。
風呂場の扉の閉まる音はしたが、なかなか叔母は戻って来ない。
思えば 昨夜も そうだった。
どうやら女性は 風呂をあがってからの方が時間が掛かるらしい。
ずいぶんと間があって 叔母が戻ってきた。
『何みてるの?』
叔母がテレビを覗き込んだ。
「何も‥」
「つけただけ‥」
『‥そっか』
『ケンちゃん、学校は?』
『月曜からなの?』
「いや、水曜から‥」
「火曜は入学式で 俺は次の日から」
『そう‥』
『叔母さん 火曜日に帰るんだ‥』
『月曜にさ もっかいデートしてくれる?、明日は ほら 姉さんたち居るしさ‥、ダメ?』
「どっか行きたいの?」
『‥ううん』
『その辺の公園とか‥』
『ブラブラするだけで良いの、アイスとか食べながらさ、ダメ?』
「いいけど」
『ありがと』
『‥ ‥ どうする?、寝る?』
「うん」
『腕枕、してくれる?、今日も』
「‥うん」
壁際に横になった叔母の枕元に 腕を伸ばした。
『ありがとう』
そう小声で言った叔母が、昨夜の様に
俺の胸元に 小さく丸まった。
また 天井を見上げた。
また 心臓の音が聞こえた。
どれ程の時間が過ぎたのだろう、次第に暗闇に目が慣れてきた。
『眠れないの?』
丸まったままの叔母が 顔も上げず 丸まったままで聞いてきた。
「ん?、うん」
「‥なんだかね」
天井を見上げたまま 答えた。
『‥そっか』
『ゴメンね』
「ん?、大丈夫」
『ねぇケンちゃん?』
3分だったか10分だったか、しばらくの沈黙を破る様に 叔母が問いかけてきた。
「ん?」
『‥何でもない』
『いいの、ゴメンね』
「‥どうしたの?」
「眠れないの?、叔母さんも」
『チューして、ケンちゃん』
『そしたら眠れると思う』
『‥ダメ?』
ガキの俺は そんな時に掛ける言葉なんて 持ち合わせていなかった。
俺の腕の上で 顔を上げた叔母に 唇だけを 黙って 重ねた。
心なしか 叔母の顎が 少しだけ 上がった様な気がしたが、俺は ソレ以上の事は出来なかった。
『ありがとう』
『おやすみ』
そう言って また 叔母が 俺の腕の中で 小さく丸まった。
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