『明けましておめでとう ございます』
1月2日、10時半、中谷家を訪ねた。
『明けましておめでとうございますぅ、どうぞどうぞ』
と、由美ちゃんが出迎えてくれた。
「明けましておめでとうございます」
「はじめまして、板橋です」
『典子です』
〔私は、寺崎幸子です〕
「はじめまして、由美の父です」
しばし 堅苦しい挨拶が続いていた所に、由美ちゃんが お屠蘇を手に現れた。
『由美ちゃん?、お子さん達は?』
『一応その‥、ね?呼んでくれる?』
そんな、気をつかっていただかなくても、由美ちゃんと父親が ほぼ同時だった。
『それが楽しみなんじゃないの!』
『由美ちゃんだって そうだったでしょ?』
〔それは そうですけど‥〕
と、子供たちを呼びに向かった。
「おじさん おばさんの話しに付き合わなくても大丈夫だよ‥」
お年玉を渡して、たしか そんな事を言って 帰してあげたんだと思う。
「由美も良くして頂いてるらしいのに 孫達にまで‥、本当に ありがとうございます」
と恐縮している お父さんに
『そんな、こちらこそ由美ちゃんには‥、ところで お父さん?』
『私が お父さんなんて お呼びするのは失礼ですけど、もう どちらか初詣は行かれたんですか?』
と、ノリちゃんが切り出した。
「いえ、まだ、こんなご時世ですし」
「板橋さんは?」
「ウチは 昨日 氏神様に‥」
「年初の儀式みたいなモンで‥」
『で、こんなご時世ですけど しっかり用心しながら 何処っか行こうかなぁ?って』
『良かったら ご一緒に‥、如何ですか?』
とノリちゃんが俺のあとにつづいた。
「寺崎さん ご夫婦も 一緒に?」
「失礼、勝手に旦那さんが居るもんだと‥」
〔失礼なんて そんな‥〕
〔居るには居るんですけどね‥〕
「‥‥、これはこれは かえって失礼な事を聞いてしまって‥」
〔いえ、居るには居るんです‥〕
〔年末で定年退職して‥〕
〔以前から 体調は良くなかったんですけどね、糖尿が酷いらしくて 最近は 何処か行くでもなく 何かするでもなく‥、もぅアッチだって〕
〔・・・・・〕
〔ヤダ私、つい いつもの調子で‥〕
〔職場じゃないんですもんね‥、ヤダぁ、私ったら‥〕
『で、こんなご時世ですけど 初詣でも行って‥、って事に』
『一緒に如何ですか?、4人で‥』
と、ノリちゃんが あからさまに割って入った。
「職場と おっしゃいましたか?」
「お仕事 なさってるんですね?」
〔はい、近くのスーパーに‥〕
〔主人は定年退職しましたけど 私はまだ年金貰えるまで 数年有りますし‥、なのでパートに‥〕
〔それに、あんな覇気のない主人と24時間なんて‥、あり得ないです〕
〔・・・・・〕
〔ゴメンなさい、お正月から こんな話しを‥〕
『なので 先日の温泉も 由美ちゃん お借りしちゃって』
『年末の忙しい時に 申し訳けありませんでした』
〔そのお詫びって訳でも無いんですけど ご一緒して頂けたらなぁ、と〕
ご主人への不満に 幸子さん自身の年齢も それとなく加えて、ノリちゃんと幸子さんとで 追い込んでゆく。
「いつですか?、明日とか?」
お父さんがノッてきた。
『明日でも明後日でも‥』
『中谷さんの ご都合で‥』
『6日まで お休みなので』
「明後日‥、で如何でしょ?」
「大丈夫か?由美?」
〔大丈夫よ〕
〔あの子達も友達と どっか行くんだろうし、私は私で 1人を満喫させて貰うわ〕
「‥‥らしいんですが、本当によろしいんでしょうか?、私なんかで?」
〔いえ!〕
〔ありがとうございます〕
〔嬉しいですぅ〕
幸子さんの声が わざとらしく弾んでいた。
「いえ、こちらこそ、その‥」
『いえいえ、こちらこそ有り難うございますぅ』
『詳しい事は 明日の夜にでも改めて連絡させて頂きますので‥』
『って、私より幸子さんの方が良いんじゃないかしら?、教えて頂けば?、お父さんの電話番号』
ノリちゃんに そう言われて 2人は ぎこちなく 連絡先の交換をしていた。
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