『もしもし?』
昼食を終え 宿に向かう途中 3時すぎ ナビの画面が替わった。
「もしもし?」
『もしもし?、寺崎です、幸子です』
「すみません、あと30分は掛からないと思うんですけど」
「お待たせしてしまって‥」
『いえ、私達も 今しがた着いたところで‥』
『でね?、キャンセルが出たらしくて、お風呂 5時から入れるらしいしんです、どうしましょ?』
見渡すと 2人は 共に頷いている
「5時に風呂 6時にご飯って事ですか?」
『ええ、どうしましょ?』
「それで お願いします」
『はい、そうしましょう』
『気を付けていらして下さいね』
と、電話が切れた。
〔やっぱり影響あるのね?〕とか
『濃厚接触が‥』が、どうとか
そんな話しをしながら宿に着いた。
ロビーに寺崎さん夫婦を探した。
が、ロビーに その姿はなかった。
間隔が大きくとられ その間には それぞれ空気清浄機の置かれた ソファーに座った。
「板橋さん‥」
電話をしようと スマホを手にした時 旦那さんの声がした、夫婦で売店を物色していたらしい。
俺達は荷物を持ち 由美ちゃんの紹介もこそこそに、寺崎さん夫婦のあとに続いてフロントに向かった。
チェックインを終え、中居さんに案内されて部屋に着いた。
中居さんが 部屋と貸し切り風呂以外ではマスク着用のお願いや 風呂と食事の事など 事細かに説明してくれている。
[では、お風呂にお出掛けの時に お布団敷かせて頂きますね]
そう言って立ち上がった中居さんを バッグを持った幸子さんが追いかけて『‥お願いしますね』
と、心づけを手渡していた。
深々と頭を下げて 中居さんが出ていった。
「すみません、改めて‥」
「私達を慕ってくれてる、中谷由美さんです」
〔はじめまして、中谷です〕
[はじめまして、寺崎です、妻の幸子です]
と、とりあえずの挨拶を済ませた。
『そう言えば、浴衣 選んで下さいって言われてたのよね?』
『私ったら うっかりしちゃって、フロント戻らないと‥』
と、奥さんが申し訳けなさそうにしている。
『浴衣 選べるんだ?』
〔今は 結構あるみたい‥〕
『行きましょ、フロント』
女性陣を先頭にフロントに向かった。
フロントに着いても アレやコレやと ハシャギながら選んで 部屋に戻った。
その 行きも帰りも 何やら旦那さんが 俺に話しかけたそうにしている。
が、何かを言いかけては 引っ込めてしまっていた。
女性と男性に別れて 浴衣に着替えてる時も。
結局、宿の名前の入った 洗面セットの巾着とタオルを手に貸し切り家族露天風呂に向かった。
貸し切り家族と言うだけ有って 脱衣所も1つしかない。
本来の男湯と女湯を それぞれ貸し切りにしているらしかった。
辺りは すっかり暗くなっている、柔らかい間接照明が 雰囲気を醸し出していた。
これまた 宿の名前の入った手拭いで 隠すべき所を隠して それぞれが 掛け湯でながして 湯に浸かった。
「何か こんな言い方 不謹慎ですけど コロナバブルみたいの有るんですかね?、ロビーにも部屋にも空気清浄機が沢山‥」
みな一様に緊張していた。
先刻からの旦那さんといい 何とか打開を試みたが 結局 ぎこちない会話に終始してしまった。
俺は 幸子さんの裸体を観察する余裕もなかった、せっかくの機会だったのに。
部屋に戻ると 幸子さんが フロントに電話をしていた。
程なくしてチャイムが鳴った。
先程の中居さんが もう1人引き連れて食事を運んで来てくれた。
[お済みの器などは 廊下のワゴンに お出し下さい、後程片付けますので]
[この度は 満足プランですので ボリュームもございます、お済みの器だけで結構ですので‥]
そう言って中居さん達が帰った。
確かに 凄いボリュームだった。
すき焼き 寿司 蕎麦 お造り etc、そこに すき焼き用の追加の肉まで。
『この人ったら 全部たのんじゃって‥』奥さんに そう言われた旦那さんが、「頼みすぎましたかね?」と頭を掻いていた。
『とりあえず、乾杯しますか?』
ノリちゃんがビールを注ぎはじめた。
何をどう話したのか 覚えてはいないが、酒が入りだして 先刻の風呂場での緊張が何だったのか?と思う程 いつしか 打ち解けていた。
おそらく 1人1人が思ってる これからの展開は同じ。
痺れを切らしたかの様に ノリちゃんが言った。
『すみません、トイレに‥』
『行こう‥、由美ちゃん』
〔えっ?〕
〔‥私‥〕
『ほら』ノリちゃんが 由美ちゃんの肩をたたいた。
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