新一は嫉妬を覚えなかった。
確かに中出しはショックだったが、それを通り越して胸に穴があいたような苦しさを覚えていた。
重い足を引きずるように寝室に向かった。
愛はすでに眠っているようだ。
スヤスヤと眠っている愛の顔を見つめ、優しく髪を撫でた。
奇麗だと思った。
綾乃よりも。
どうして気づかなかったのだろう。
自分ひとりがバカに思えてくる。
こんなことしなければよかった。
全て自分が悪い。
でももう遅い。
愛の心はもう自分から離れてしまっているのだろう。
気づかないうちに涙がこぼれていた。
愛の頬に雫が落ちた。
男のクセに、自分を罵りながら涙を拭うと、静かに部屋を出た。
愛は眠っていなかった。
躰は昨日からの激しいセックスで疲れていたが、新一のことが気になって眠りにつくことが出来なかった。
新一はわたしの浮気を気付いている。
さっきの涙、新一は泣いていた。
優しく、思いやりのある新一は、人前で涙を見せたことは一度もなかった。
もちろん愛の前ででもだ。
今まで何度かひょっとしたら、新一はわたしの不倫に気付いているのではと思ったことがある。
ずっと自分を求めて来ないし、その態度や言葉にそれを感じることがあった。
不安に溺れそうになって、ますます凌馬との情事にのめり込んで、いやのめり込んだふりをして、不安を取り払おうとしていた。
確かに凌馬とのセックスは最高だった。
わたしを何度も絶頂に押し上げ、心も躰もバラバラにして、全てを忘れさせてくれる。
でも、それは、その時だけだ。
本当に自分勝手なのは分かっている。
浮気への好奇心と凌馬への好意に負けて、自ら凌馬を誘惑した愚かさを呪った。
でも、新一にいっぱい抱かれたい。
新一に求められる女でいたい。
新一が涙を流して部屋を出るとき、思いきりしがみつきたかった。
いかないでとすがりつき、全てを懺悔したかった。
でも怖かった。
新一に拒まれ、突き放されるのが怖かった。
俺を裏切った、浮気女と罵られるのが怖かった。
そして、新一の涙がつらかった。
わたしは新一を苦しめている。
もう今日が最後と決めた。
凌馬との関係は終わりにする。
新一はさっき、優しくわたしを撫でてくれた。
まだ間に合うかも知れない。
新一が自分に戻って来てくれるのを待つ。
でもそんな日が本当に来るのだろうか?
明日にでも別れを告げられるかも知れない。
怖い、、、
愛は少女のように震え、声をこらえながら涙を流していた。
その日、新一がベッドに戻ることはなかった。
つづく
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