館内は話題になっている映画とはいえ、平日の昼間のせいか客席はまばらだった。
二人並んで席に着いた。
不意に拓人が尋ねてきた。
「今日のこと、凪には言ったの?」
唯は首を横に振る。
「オレも詩織には言ってない、、、」
わたし達二人ともお互いに結婚しているのに相手に隠して、こうして会っている。
まるで、、、そう、不倫しているみたいに、、、
唯の胸は再びドキドキし始めていた。
証明が消えた。
唯は自分を戒めるようにスクリーンに集中した。
さすがに評判の映画だけあって、直ぐに引き込まれる。
終盤に差し掛かる頃、不意に手を握られていた。
思わず唯は体を固くした。
でも唯はその手をはね除ける気はまったく無かった。
黙って手を拓人に委ねる。
まるで独身時代に戻ったように、激しく胸が高鳴っていた。
初めは握っているだけだった手のひらを、優しくなで始めている。
それだけで唯は声が漏れそうになるほど感じていた。
声をこらえ体を震わせていた唯を拓人が横から抱き寄せていた。
唯は素直に身を任せた。
拓人の逞しい胸板に頭を預ける。
手を握ったまま、もう片方の手が唯の乳房の裾野を、優しく撫でているのを感じていた。
ああ、胸を触られる。
唯は拓人の顔を見上げるようにしてみた。
拓人は唯を求める目つきで見つめていた。
唯の唇を欲しがっていた。
唯は俯き、再び拓人の胸に頭を押し付けていた。
ここじゃあ、イヤぁ、、、ここではダメぇ、、、
小さな声で呟きながら、唯は拓人の手を強く握りしめていた。
拓人の指先は唯の胸の裾野をなぞり続け、その先に進んでくることはなかった。
二人は映画館を出るとカラオケ店に入った。
ホテルに誘われたら、頷いてしまいそうな自分が怖くて、唯のほうからカラオケに誘っていた。
つづく
※元投稿はこちら >>