詩織と関係をもってから10日ほどたっていた。
凪は詩織の態度にぎこちないものを感じていた。
何か避けられているような気がするのだ。
以前のように気軽に話しかけられることも無くなり、職場で二人きりになりそうになると、詩織の方から、その場を離れていくことが何度かあった。
きっと、あの夜のことを詩織は後悔しているのだろう。
凪はそう思った。
詩織を苦しめることはしたくない。
あの夜の出来事は夢だったのだ。
凪はつらかったが、そう思うことにしようと心に決めた。
今夜は唯が娘を連れて実家に帰っている。
一人で外食をして帰ろうとすると、偶然、街角で詩織を見かけた。
詩織は見たことのない男と楽しげに話をしていた。
立ち止まった凪は頭の中が真っ白になった。
詩織は凪に気づいたようだった。
凪は踵を返すと、早足で来た道を戻り始めた。
ショックで胸が苦しくなり、目眩がしたが、早くその場を離れたかった。
しばらく行くと、後ろから走って追いかけて来る足音が聞こえてきた。
いきなり後ろから腕をつかまれていた。
「凪君、違うの、、、そうじゃないの、、、」
息をきらせながら詩織はそういった。
二人は近くの公園のベンチに座っていた。
自分たちを見て、顔を真っ青にして足早に去って行く凪に、誤解されたと思った詩織が走って追いかけて来たのだ。
詩織は相手は学生時代の友人で、たまたまあの場所で久しぶりに偶然会っただけだと言った。
「すいません、オレ、誤解して、、、、オレ、詩織さんが他の男と楽しそうにしているを見たら、胸がすごく苦しくなっちゃって、、、」
詩織は凪の胸に体を預けてきた。
「わたしこそ、ごめんなさい、、、、わたし怖かったの、凪にもう逢うのはやめようと言われるんじゃないかって、、すごく怖くて話が出来なかったの、、、、」
「オレの方こそ、、詩織さんが後悔しているんじゃないかって、、、そう考えたら、すごくつらくて、、、」
「後悔なんてして無いよ。わたしは凪が好き、ずっと前から凪が好きだから、、、」
「オレも好きです。自分が勝手な男だと分かっています。でも、どうしようも無いくらい、詩織さんが好きなんです。」
「、、、嬉しい、、、それだけでいい、、、凪がわたしのこと思ってくれているだけでいいの、、、」
二人は見つめ合い、口づけをした。
「ふふっ、わたし達、高校生みたいだね、、、」
「うん、そうかも、、、」
「ああっ、わたしのことオバさんだと思っているでしょう?」
「詩織さんみたいに奇麗なオバさんなんていませんよ。」
「うーん、、褒められているのか分からない、、、」
「褒めてます。オレ、、、詩織さんが大好きです、、、」
「わたしも好き、、、凪のこと、大好き、、、」
見つめ合った二人は、さっきよりも熱い口づけをした。
二人は手をつないで公園を出た。
「唯ちゃんは大丈夫なの?」
「あいつ、優香と実家に行っているから、、、」
「わたしも、、、拓人は出張、、、、」
詩織は通りかかったラブホの前で立ち止まった。
「ねえ、、凪、、、、」
詩織は顔を真っ赤にしていた。
「うん!」
凪は詩織の手を引いてホテルの中に入っていった。
つづく
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