高橋「社長が水曜日に来るようです。」
電話口から聞こえる高橋さんの声に私は驚いた。
私「水曜日って……。子供達がいますよ?ホテルか何かに妻が来いということですか?」
高橋「恐らく。」
私「それは無理です。私も、金曜日ならばまだ時間は作れても水曜日は時間が作れない。今からそちらへ伺います。」
高橋「お昼過ぎには社長は会議があるので、午前中ならば大丈夫です。社長室には伝えておきます。」
私は課長に吉田社長と打ち合わせに行ってくる旨を伝える。
課長も同行しようとしたが、先方から今日は時間も場所もないから私だけで来るようにと指定があった、と嘘をついた。
私がI社へ赴くと、社長応接室へ通された。
20分くらいたち吉田社長が応接室へ入ってきた。
吉田「やぁ、おはよう。月曜から忙しいみたいだね。」
私「社長、水曜日は無理です。子供達の面倒が見るものがいません。」
吉田「そんなに無理かね?」
私「はい。無理です。」
吉田社長は応接室の電話の受話器を取り上げる。
吉田「おい、今朝上がってきた、例の書類を持ってきてくれ。」
何の紙だろうか。すぐに応接室の扉が開く。
吉田「本来ならば、あまり見せるモノじゃないが、今回は見せてやろう。」
そう言いながら、吉田社長は一枚の紙を私に投げた。
紙には「納入遅延にかかる損害請求」と題されており、表題の下に更に金額が書いてあった。
細かい金額は抜きにして、請求額は
4000万円
と記載されていた。
私「なっ………!当初より増えているじゃないですか!」
吉田「うちの経理が優秀でね。年末はイベントが色々多い。だから、損害額も跳ね上がったんだよ。」
社長は不敵な笑みを浮かべながら続ける。
吉田「君の会社に請求する際はきちんと根拠を示して請求するよ。それよりも……だ。君のところの子供がどうとかなんて、私の知ったことではないんだよ。誰が週末だけだと言ったんだい?」
私「それは……。」
吉田「君にはガッカリだな。あんなに話の分かる奥さんを連れているのに。」
私が暫く沈黙していると、扉のノックをして高橋さんが部屋へと入ってきた。
高橋「社長ちょっと………」
吉田「なんだね!今私はK君と話をしてるんだぞ!」
高橋「申し訳ありません。実は………」
そっと高橋さんが吉田社長に耳打ちをする。
それを聞くと、吉田社長は高橋さんと共に外へと出ていく。
再度吉田社長が部屋へ入ってくる。
吉田「K君、命拾いしたみたいだね。水曜日はまたまた出張が入ったようだ。」
私「では、水曜日は!」
吉田「君の望み通り、延期だな。だが、今週末は必ず行かせてもらうよ。今度はガッカリするようなことは言わないでもらいたいね。」
そう言い捨てて吉田社長は部屋から出ていった。
高橋さんが部屋へ入ってきた。
高橋「お疲れ様です。」
私「お疲れ様です。高橋さん。社長に何を?」
高橋「一応これでもいくつか仕事は持ってまして。ただ、今回のことで、私の仕事をネタに引き延ばしは難しくなります。やりすぎると、私が社長に飛ばされかねないんで。」
私「ありがとうございます。でも、何故?」
高橋「私にも責任の一端があるからです。Kさんのお子さんとうちの子供が同じ幼稚園に通っている、ということを社長がかぎつけてしまって。それで興味がわいてしまったのだと思います。妻は今回の件をすごく怒っていて、だから、助けられる時は助けてあげろ、と。」
私「そう……なんですね。」
私は高橋さんを責める気にはなれなかった。
高橋さんが言わなかったとしても、恐らく吉田社長にはばれていただろう。
私は家に帰宅すると、妻に今週末は吉田社長が来る旨を話した。
妻は、実家に連絡を取り息子達を預ける算段を整えたのだった。
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